短い話
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「雲雀くん。失礼します!」
「…!?」
今こんなときに言うことじゃないかもしれないけど、僕のファーストキスは雲雀くんだ。小学3年生の時、僕が転校することを帰りのホームルームで発表したあの日、人気のない体育館倉庫の前でボコボコにされたあと突然キスされた。今思えば、直前まで転校を黙っていた僕に対する苛立ちと、雲雀くんの所有物であることを分からせるためのマーキング的行為としてのものだったんだろうけど、当時のおませな僕は雲雀くんが僕のことを好きなんだと思って、なんだかキュンとしてしまったのである。離れた月日はそんな思い出をより美しくするに充分なもので、7年経ってようやく並盛町に戻ってきた僕は一番に雲雀くんに会いに行くほど従順に育っていた。久しぶりの再会に、雲雀くんは切れ長の目を見開いて言葉を失っていた。かつて小さな教室の窓際の席から、信じられないものを見る目で僕を見ていたあの頃と重なるようで、懐かしい気持ちが加速する。第一声は何にしようかと、浮かれた気持ちで考えてた僕の言葉は雲雀くんの唇に飲み込まれた。一言も発せないまま口付けられた僕の思考回路は停止する。加えてそのキスが唇を合わせる以上の深いディープキスで、腰砕けにされた僕はとうとう何も喋れない。「…ん、」「ぁ、ひば、んんっ」再会早々喘がされた。
それからは何かあるたび(何もなくても)雲雀くんは僕にキスをする。あの日、8歳の雲雀くんがキスをしたことで、15歳の僕が雲雀くんの元へ帰ってきたと信じているのかもしれない。さらに言えば僕がキスさえすれば言うことを聞くと思っているのかもしれない。そうでなければ男にキスをして嬉しいことはないだろうに。僕はそんなことをされなくても雲雀くんのそばにいるのに。そう口に出す前に今日も唇をふさがれるというわけだ。
長くなったけど、つまり僕は雲雀くんにやられっぱなしで、最近それが気に食わなくなってきた。気に食わないというか、毎度毎度喘がされて、男にキスされているのに感じてしまって、このままでは女の子と致せない体にされてしまう。その前になんとか意趣返しをしてやろうと、今日、こうして、雲雀くんを応接室のソファーに押し倒している。
「どういうつもり」
ああ、今僕は、雲雀くんに跨って彼を見下ろしている…。普通ならここでぶっ飛ばされてもいいくらいなのに、雲雀くんはそんな素振りを見せない。いつもと同じ、平坦な声だ。ただ少し、瞳が濡れたように見えるのは気のせいだろうか。
「ちょっと。聞いてるんだけど」
「……雲雀くん」
シャープな顎をすくって顔を近付けると、雲雀くんが少し瞠目した。「何を、」言いさした言葉を全部飲み込んでしまう。いつも彼がしているみたいに。
雲雀くんの唇は柔らかい。何度も下唇を食みながらその薄い唇を舐めた。ちゅ、ちゅ、と音がするたびに恥ずかしくなる。恥ずかしくて目なんか開けられない。予想に反してされるがままの雲雀くんは、僕が舌を差し入れるとあっさりと迎え入れた。慣れない動きで舌を絡めても拒否しない。なんだ、雲雀くん。どうしたの。
雲雀くんからしたら飼い犬に手を噛まれていると言ってもいい状況なのに、抵抗されないのが不思議でならない。それどころか、なんか、徐々に雲雀くんも乗ってきているような気が…。
後頭部に手が添えられたと、気付いたときには遅かった。
「…!?」
ぐっと押されてキスがより深いものになる。唾液が混ざり合ってぐちゃぐちゃになる音がする。上顎を舌先でくすぐるように撫でられて上ずった声が出た。待って待って。待って!
「ひば、雲雀くん。雲雀くんてば!」
「……何」
彼の顔の横に付いた腕に力を入れて、彼の手を振り切るように顔を上げた。乱された呼吸をなんとか整える僕と対照的に、余裕綽々といった様子で唾液に濡れた唇を真っ赤な舌がペロリと舐めとるのが目に入った。肉食獣が獲物を前に舌なめずりでもしてるんじゃないか。サバンナの風を感じてしまって腰が引けた。そのときに気付いた。
「雲雀くん、た、勃ってるけど」
「………」
「あっ!?」
あろうことか、雲雀くんは、立てた片膝を僕の股間にぐりぐりと押し付けた。な、な、なんてことしてるんだ!?鈍い快感がせり上がってきて、あわてて彼の膝を押し返した。な、なんてことだ。半勃ちにされてしまった…。立派なテントを張っている雲雀くんの股間が目に痛い。
「誘ったのはそっちでしょ」
「さ…誘ってはない…」
雲雀くんのあられもない姿を視界にいれないように、覆いかぶさるのをやめて上半身を起こした。彼の膝の上に跨ったまま、あからさまに目を逸らす僕は、弱虫だ。雲雀くんが何を考えているのか全然分からない。
「ねえ」
「雲雀くん、待って、待った」
「続き、しないの」
僕の首筋に手が伸ばされた。
蛍光灯の白い光が映り込む雲雀くんの瞳は、期待に濡れているように、見えた。
やっと。
2018.11.10