短い話
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紹介状も発見され黒の教団の扉は無事開かれた。
リナリーが案内に出て来てくれたのでアレンくんは彼女に任せることにする。かわいい女の子が大好き紳士なアレンくんはその方が嬉しいでしょう。別れる前にもう一度再会を祝う握手をするとアレンくんは花が咲いたように笑った。そうだよね握手ってこうやって向かい合ってやるものだよね。ふとそんなアレンくんの視線が僕の後ろに移動したので、つられて振り向くと神田がこちらを見ていたところだった。ていうか睨んでいた。僕と目が合うとチッと舌打ちして踵を返して暗闇の中を去って行く。前から仲が良かったわけじゃないけど最近特に当たりがきつい気がするのなんでかな。神田の感情の機微ほんと分かんない。ガラスの十代かよ。
「あの、神田」
「…あ?」
「って呼ばれてましたよね」
神田の背中にアレンくんが呼びかけると、鋭い視線が返ってきた。アレンくんがちょっとたじろぐのも無理はないなと思うくらい容赦のない目線だった、初対面の相手に向ける目ではなくない…?「彼、任務から帰ってきたばかりだから気が立ってるの」リナリーがこそっと耳打ちしてくれた。そういえば神田と会うのは久しぶりだったかもしれない。
「よろしく」
「…」
アレンくんが差し出した手を見つめて何やら逡巡しているようだった。そんなにためらうところか?と僕は不思議に思う。好き嫌いがキッパリしすぎているところのある神田にしては珍しい間だ。神田が何を考えて握手をためらっているのか僕にはまったく分からなかったけどこの時間はちょっと無駄だなと思った。アレンくんはこのあとヘブラスカに会いに行かなきゃいけないし、手続きあるし…。僕は神田に歩み寄って彼の右手をぎゅっと握った。
「は?」
「神田、強制握手です。アレンくんとの間接握手」
「は?は?」
「仲良くしましょうね。よろしく」
僕が手をはなすまで神田は握手されるがままだった。アレンくんが「それアリですか?ずるいです」とブーたれているけど何がずるいのかはちょっと分からない。「君ははやくリナリーと中へ」というと素直に返事をしてリナリーのもとへ駆けていった。そういう素直なところはアレンくんの良いところだし神田も少し学ぶべきところだと思うんだけど、素直な神田はちょっと想像つかないし気持ち悪い…。彼は今のままでいいな。
「神田?」
無理やり握手された右手をじっと見つめている。そんなに嫌だったのか?それとも嬉しかったのか。僕にはまったく分からないので何か言ってほしい。エスパーじゃないんだ僕は。
「…嫌でした?」
分からないから聞いて見ると、神田はキッと僕を睨んで人差し指を胸に突きつけた。ぐっと押されて思わず一歩後ろに下がる。
「ウゼエ。ムカツク。アホ!」
嫌だったらしい。それだけ吐き捨てて神田は暗闇に消えた。悪口が直球すぎて逆に気持ちいいよ…エムかよ僕は…。
▽
研究室に戻るとリーバーさんが待ってたぜとばかりに出迎えてくれた。アレンくんのことを聞きたいんだろうな、と思って「彼とは昔一度会っただけですよ」と言うと不意を突かれたような顔をした。コーヒーを淹れに向かうとコップを突き出してきたので彼の分も淹れてあげる。
「クロス元帥の弟子だって?」
「そうです。昔任務で行った地でたまたま元帥と会って、そのときアレンくんとも会いました」
ふーん、なるほど、と呟くようにしてコーヒーをすするリーバーさんを横目で見た。リーバーさんはコーヒーをブラックで飲む。僕はミルクも砂糖も人より多めが好きなのでそんな彼のことが年齢よりも大人っぽく見えていた。前に科学班の誰かに「マキは子供舌だから班長が羨ましいんだろ、大人の男に見えて」と言われたけどその言葉の意味は未だによく分かってない。僕が甘いものが好きなこととリーバーさんがブラックコーヒーが好きなこと、どんな関係があるんだろう。僕とリーバーさんは6つも離れているんだから、それはリーバーさんの方が大人の男に近いに違いない。ふとリーバーさんの手が僕の手からマグカップをさらっていった。代わりに彼のマグカップが渡されたので流れで持つ。黒いコーヒーがなみなみと揺れていた。一口飲むと苦くて酸っぱくて思わず舌をべっと出した。リーバーさんも僕のコーヒーを飲んでべっと舌を出していた。
「神田は?何か言ってたか?」
「ウゼエ。ムカツク。アホ」
「え」
「って言われました。最近のキレる若者…」
「あ、ああ〜」
ビビった〜、と言いながらリーバーさんはまた僕のコーヒーを舐めた。甘いな〜と文句を言いつつその甘さを楽しんでいるようだった。名前も知らない科学班員へ、僕がリーバーさんの大人の男っぽさ羨んでいるように見えたのなら、それはこういう違いを楽しむ余裕にあると思うよ、と今なら言えそうだなと考えた。でも苦いコーヒーは好きじゃないからそろそろ返して。
「神田は僕のことが嫌いなんですか」
「えっ」
「最近そう思うことが多くて」
予想外の話題だったのか、リーバーさんはうーんと唸って頭をがしがしかいた。少なくとも即答できないくらいには曖昧でデリケートな部分なんだろうな、神田はガラスの十代だから…多感なお年頃だもの色々あるさ。その一言で終わらせないリーバーさんは真面目で良い人だ。
「あー、マキは神田のこと嫌いか?」
「いいえ?」
いくら神田が僕のことを嫌いで、憎んですらいたとしてもそれは僕には何の関係もないことだ。
「僕は人の好き嫌いはしたことないので」
だって僕の持つ感情は僕ひとりで決めることだから。そこに神田の入り込む余地はないです。そういうとリーバーさんは複雑そうな顔をした。
「お前はそういう奴だよな」
それって褒め言葉なんだろうか。どっちでもいいけど、たぶん褒め言葉なんだろうなと思う。
ザ・杓子定規。
2016.5.26