1章
目の前には火の国の巨大な門が広がる。
草の国の難攻不落な城壁ほどではないが、水の国はおろか帝国内でも見たことのない最新式の大砲が覗き、容易ではない攻略を思わせる。
門の周囲には火の国の優秀な兵士たちがこちらをにらんでいる。今はまだわが船が水の国の領土として定められた境界線にいるため何もしてこないが、一歩抜け出ればたちまち攻撃してくるつもりだろう。
そもそも今回我が国がここまで大掛かりな艦隊で火の国へ向かうのも、火の国からの侵略・略奪行為に関する水の国としての報復行為と、王都からの弾圧命令ゆえである。
3年前に先代女王の突然の死により、その娘が若くして即位して以来、火の国は破竹の勢いで領土を拡げていた。
帝国周囲の小国を次々と占領し、囚われの者達の中で王を除いて恭順の意を示したものに関してはみな解放し、さらに大胆にもカリンカの他国へも侵略を行い、財宝の略奪と奴隷たちの解放と保護を行っていた。
その寛大さに虐げられし者達は彼女を慕い、敵となる者たちはその勇猛果敢さと戦略の天才ぶりに恐れをなしているのだ。
今回もたまたま俺がシンフウたちと他国への略奪に向かっていた隙を突かれ、多くの財宝と奴隷たちを略奪されてしまった。
自己弁護と保身ばかりで、多くの部下たちを見捨てた無能な将軍に関しては即刻処罰した。
まぁどうせ皇帝の息のかかった監視役だったから、これを機に抹殺できたのは都合が良かったが…。
この遠征も半分は皇帝の命だと思うと腹立たしいが、その分好き放題してもある程度目こぼしだと思えば、チャンスでもある。
皇帝たちも知らない火の国の最新式の強力な武器を、この機にこっそり手に入れられれば、それは俺が皇帝となるための大いなる助けとなるはずだ。
そう、そうすれば皇帝の裏にいるあの男にも…。
「旦那、どうしました?」
爪を噛み、遠くに想いを馳せていた俺を心配そうにレイが見つめていた。
「ん?すまん、ちょっと考え事だ。」
「しっかし、どんな女なんすかねー、火の国の女王ってのは。噂じゃ荒馬で10人踏みつぶしながら、10人を斬り殺す女だって話ですがね。」
「さあな。ま、いずれにしても男勝りに戦場を駆け巡るような女なんてどうせろくなもんじゃないさ。抱く気にはならんね。」
「もー、旦那はそればっかりなんすからー」
あきれ果てたような顔でシンフウが俺を見てきた。
火の国の女王―強い、とは言っても所詮女だ。大したことはないだろうが、俺がカリンカの皇帝になるにあたっての後憂は断っておくべきだ。
「で、どう思う?この様子は」
「皇帝の命を受けているとはいえ、戦争ではない今回、わが軍は500、小国とはいえ向こうの軍は軽く見積もって1500、しかも正規の軍人ではない国民もある程度戦いに精通しているとなれば…」
「正面衝突の戦いは圧倒的に不利、か…」
「えぇ。とすりゃ裏の一般国民の住む地域からに不意討ちを狙うが吉でしょう。」
「確かにな。しかし、向こうも歴戦の猛者なら何かしらの対策は打ってくるだろう。」
「えぇ。だから軍を2つに分けるんですよ。正面からと裏手から。そうすれば敵は我々の正確な数を把握しにくい。」
「なるほどな。よし、それで行こう!ただし、裏手に回る側の数は少なく、その代わりに選りすぐりのメンバーを選んで来い。」
「承知!」
「裏手に回ったことは極力門を守る奴らには気付かせるな。小型の船で回り道で気づかれないようにいく。それから裏手に回るメンバーには俺も入れろ。」
「旦那が⁉」
「マジですか⁉」
「部下たちだけ危険な目に遭わせられるか。それからシンフウ、悪いがお前はこちら側に残れ。」
「なぜ?」
「表側を攻める連中は裏手に回るメンバーが抜けだすのを気づかれないようにしなけらばならん。派手に奴らを引っ掻き回す必要があるだろう。要は陽動作戦だ。適切に陽動作戦を仕切れるのはお前ぐらいしかいない。俺たちが裏手を攻めきるまでもっててもらわなきゃならんしな。」
「わかりました!すぐに準備を!」
「ちぇっ、兄貴ばっかり…。」
「そう言うな、レイ。お前はお前でお前にしかできない表と裏手の連絡係をやってもらわなきゃならん。ハードに動き回るから覚悟しとけよ~。」
俺はレイのとうもろこし色のたわし頭をわしゃわしゃとかき回した。
「ちょっ、旦那、いつまでも子供みたいに…!」
「ばーか、お前はまだ子供だろ?まだ14だ。我が国の成人は16だぞ。」
シンフウが軽くレイを小突くとぶーたれた顔をしてレイは準備を始めた。
戦や略奪の前はいつもこいつらとこんなじゃれあいをする。命のやり取りの前に不謹慎と思われそうだが俺もこいつらも戦で負ける気は毛頭ない。そして事実俺たちは負け知らずだ。
こんなやり取りをしているが、レイとシンフウの兄弟のタッグは最強だ。この二人で組ませて戦わせると周りには死人の山がいつもできていた。
今度の戦いもいつも通り、ある程度弾圧して向こうにカリンカへの忠誠を誓わせ、奪われた財宝を取り返し、ついでに火の国の女たちと武器を略奪して終わる―そう思っていた。
草の国の難攻不落な城壁ほどではないが、水の国はおろか帝国内でも見たことのない最新式の大砲が覗き、容易ではない攻略を思わせる。
門の周囲には火の国の優秀な兵士たちがこちらをにらんでいる。今はまだわが船が水の国の領土として定められた境界線にいるため何もしてこないが、一歩抜け出ればたちまち攻撃してくるつもりだろう。
そもそも今回我が国がここまで大掛かりな艦隊で火の国へ向かうのも、火の国からの侵略・略奪行為に関する水の国としての報復行為と、王都からの弾圧命令ゆえである。
3年前に先代女王の突然の死により、その娘が若くして即位して以来、火の国は破竹の勢いで領土を拡げていた。
帝国周囲の小国を次々と占領し、囚われの者達の中で王を除いて恭順の意を示したものに関してはみな解放し、さらに大胆にもカリンカの他国へも侵略を行い、財宝の略奪と奴隷たちの解放と保護を行っていた。
その寛大さに虐げられし者達は彼女を慕い、敵となる者たちはその勇猛果敢さと戦略の天才ぶりに恐れをなしているのだ。
今回もたまたま俺がシンフウたちと他国への略奪に向かっていた隙を突かれ、多くの財宝と奴隷たちを略奪されてしまった。
自己弁護と保身ばかりで、多くの部下たちを見捨てた無能な将軍に関しては即刻処罰した。
まぁどうせ皇帝の息のかかった監視役だったから、これを機に抹殺できたのは都合が良かったが…。
この遠征も半分は皇帝の命だと思うと腹立たしいが、その分好き放題してもある程度目こぼしだと思えば、チャンスでもある。
皇帝たちも知らない火の国の最新式の強力な武器を、この機にこっそり手に入れられれば、それは俺が皇帝となるための大いなる助けとなるはずだ。
そう、そうすれば皇帝の裏にいるあの男にも…。
「旦那、どうしました?」
爪を噛み、遠くに想いを馳せていた俺を心配そうにレイが見つめていた。
「ん?すまん、ちょっと考え事だ。」
「しっかし、どんな女なんすかねー、火の国の女王ってのは。噂じゃ荒馬で10人踏みつぶしながら、10人を斬り殺す女だって話ですがね。」
「さあな。ま、いずれにしても男勝りに戦場を駆け巡るような女なんてどうせろくなもんじゃないさ。抱く気にはならんね。」
「もー、旦那はそればっかりなんすからー」
あきれ果てたような顔でシンフウが俺を見てきた。
火の国の女王―強い、とは言っても所詮女だ。大したことはないだろうが、俺がカリンカの皇帝になるにあたっての後憂は断っておくべきだ。
「で、どう思う?この様子は」
「皇帝の命を受けているとはいえ、戦争ではない今回、わが軍は500、小国とはいえ向こうの軍は軽く見積もって1500、しかも正規の軍人ではない国民もある程度戦いに精通しているとなれば…」
「正面衝突の戦いは圧倒的に不利、か…」
「えぇ。とすりゃ裏の一般国民の住む地域からに不意討ちを狙うが吉でしょう。」
「確かにな。しかし、向こうも歴戦の猛者なら何かしらの対策は打ってくるだろう。」
「えぇ。だから軍を2つに分けるんですよ。正面からと裏手から。そうすれば敵は我々の正確な数を把握しにくい。」
「なるほどな。よし、それで行こう!ただし、裏手に回る側の数は少なく、その代わりに選りすぐりのメンバーを選んで来い。」
「承知!」
「裏手に回ったことは極力門を守る奴らには気付かせるな。小型の船で回り道で気づかれないようにいく。それから裏手に回るメンバーには俺も入れろ。」
「旦那が⁉」
「マジですか⁉」
「部下たちだけ危険な目に遭わせられるか。それからシンフウ、悪いがお前はこちら側に残れ。」
「なぜ?」
「表側を攻める連中は裏手に回るメンバーが抜けだすのを気づかれないようにしなけらばならん。派手に奴らを引っ掻き回す必要があるだろう。要は陽動作戦だ。適切に陽動作戦を仕切れるのはお前ぐらいしかいない。俺たちが裏手を攻めきるまでもっててもらわなきゃならんしな。」
「わかりました!すぐに準備を!」
「ちぇっ、兄貴ばっかり…。」
「そう言うな、レイ。お前はお前でお前にしかできない表と裏手の連絡係をやってもらわなきゃならん。ハードに動き回るから覚悟しとけよ~。」
俺はレイのとうもろこし色のたわし頭をわしゃわしゃとかき回した。
「ちょっ、旦那、いつまでも子供みたいに…!」
「ばーか、お前はまだ子供だろ?まだ14だ。我が国の成人は16だぞ。」
シンフウが軽くレイを小突くとぶーたれた顔をしてレイは準備を始めた。
戦や略奪の前はいつもこいつらとこんなじゃれあいをする。命のやり取りの前に不謹慎と思われそうだが俺もこいつらも戦で負ける気は毛頭ない。そして事実俺たちは負け知らずだ。
こんなやり取りをしているが、レイとシンフウの兄弟のタッグは最強だ。この二人で組ませて戦わせると周りには死人の山がいつもできていた。
今度の戦いもいつも通り、ある程度弾圧して向こうにカリンカへの忠誠を誓わせ、奪われた財宝を取り返し、ついでに火の国の女たちと武器を略奪して終わる―そう思っていた。