第一章:一学期①


 勉強合宿一日目は十九時半に終わり、生徒たちは風呂と夕食を済ませ、只今、それぞれの部屋でリラックスタイムだ。
 そんな一年三組、出席番号後半女子の部屋では。

「は~。柚子可愛い」

 美波が柚子の布団に忍び込み、くっついてご満悦である。
 呆れ気味の柚子だが、美波と友人になれたことは嬉しいので変な事をしないなら、と野放しにしている。

「いや、あんた、私の事嫌いじゃなかったんか?」
「今は大好き」
「さよか」

 そんな仲良し二人を羨ましがる女子もいて、「いいなぁ、二人仲良くて」と言って、柚子に「じゃあ、皆で仲良くしたらいいやん」と男前発言で撃ち落されていた。
 柚子は、何というか、うら若き乙女たちには少し王子的というか、男前すぎて近寄りがたい面もありつつ、好まれる性質を持っているのかもしれない。

 同じクラスの女子をメロメロにして虜にした男前な柚子ではあるが、他の女子からすれば羨望の元でもある。

「柚子ちゃん、結局のところ、若草君とはどうなん?」

 詰まる所、恋の話である。恋バナである。
 あんなに仲のいい柚子と武瑠。
 女子達は付き合っていると疑わないし、そうであってほしいほど、お似合いなのだ。

「え?どうって?」
「付き合ってるの?」
「え?付き合ってないけど」

 その瞬間、「「「えー⁉」」」と戸惑いの悲鳴が上がった。
 しかし、柚子にしてみれば寝耳に水状態で、こちらも戸惑いが隠せない。

「「「何で⁉」」」
「いや、何でと言われましても……」

 柚子にとって武瑠は大切な存在ではあるが、只の友人なわけで、何で?と聞かれても困るわけである。

「あんな仲のいい男女が付き合ってないとかある?」
「いや、実際付き合ってないし」

 また、「「「えー⁉」」」と叫ばれて、どないしよう、と思っていたらその叫び声を聞いた担任がやってきて「早く寝なさい‼」と怒られた柚子たちであった。


 柚子たちが合宿場の部屋で騒いでいた頃、合宿場の別の棟で武瑠たちもまた騒いでいた。

「で、で、で?お前、若狭さんとはどうなん?」

 結局、こちらも恋の話である。
 男子もこの二人に関しては追及したくて堪らなかったのだ。

「え?何が?」
「付き合ってるん?」

 その刹那、武瑠の顔は真っ赤になった。
 男子たちは高揚していく。

「「「お?!」」」
「いや、待って、違う。付き合ってない……」

 尻すぼみなその言葉と顔が赤くなったことから、男子たちが推理したそれは、武瑠の恋心だった。しかし、それは片想いのよう。

「お?付き合ってないないけど、好きなんか?」
「うお……、言うなアホ……」

 今日の心の変化。
 よくよく考えれば、嫉妬だ。
 武瑠は美波に嫉妬し、美波に柚子を盗られることを恐れたのだ。
 そして、今の男子たちの追及で、気づいてしまった。
 武瑠の心に芽生えた、柚子への『恋心』を。
 それを、認めざるを得なくなった。

「え、え、どんなとこが好きなん?」
「んんー……、笑顔とか、可愛いし……」

 男子たちはニヤニヤが止まらない。

「やるやん、お前」
「がんばれよ、若草」
「キューピットになったろか?」
「いや、絶対、柚子ちゃんに言わんとってや?キューピットもいらんから」

 ニヤニヤが止まらない男子たちは、その後、夜遅くまで声を潜めながら恋バナや猥談に花を咲かせたのだった。


 そして、翌日、四月十八日。
 一泊二日の勉強合宿を終えて、一年一組から三組の生徒たちは一旦学校に寄ってからそれぞれ帰宅することになっていた。
 柚子がバスに乗り込む際、伊織を含め出席番号後半の男子が何かニヤニヤと頬を緩めていたので気色悪いなぁと思っていた柚子だが、まさに、男子たちは武瑠の柚子への恋心を知って微笑ましく思っているので、武瑠はどうか男子たちが口を滑らさないかとひやひやしていた。

 少しのミスで、武瑠と柚子の関係性は崩れかねないのだ。

「(柚子ちゃんは、俺のことどう思ってんやろ……)」

 恋愛感情じゃなくていい。ただ、友達でいい。それだけで十分だ。
 でも、この恋心が決壊したら?
 柚子は武瑠の気持ちを受け入れてくれるのだろうか。
 それとも、拒絶するのだろうか。
 友達ですらいられなくなったら……。

 それを考えるだけで、武瑠はゾッとした。


 学校の駐車場にバスが停まる。
 正面には第一体育館があって、もう在校生は部活をしている時間のようだった。
 この第一体育館を使用しているのは男女バレー部だ。
 ボールを打つ音、ボールが床を叩く音が聞こえてきて、柚子はそれがとても懐かしく、恐ろしい。

 体育館の横の扉は全開で、そこにボール除けのネットが張られてあり、その傍に人影が見えた。柚子と武瑠は、「あ、」と思った。

「柚子~~~~~~!」

 詩哉だ。
 柚子を見つけて、上機嫌で手を振ってくる。
 というか、いつの間に呼び捨てにする仲になったのだ、とか、俺がいるのに気づいてるはずなのになんで俺には声をかけないんだろう、とか、そんな疑問が武瑠の中に浮かんでは消える。
 何せ、いつも通り武瑠は柚子の隣にいるのだ。
 大きな身体をしているし、詩哉が気付かないはずがなく。
 ……何か、思惑があるのだろうか。

「柚子~!今日も可愛いわ!」
「……はぁ、どうも」

柚子は相手が知っていると言えば知っているが詳しくはあまり知らない先輩なので困惑気味である。

「いやん、スーパードライ!そんなところも好き!!」
「「え⁉」」

詩哉の愛の告白に、柚子と武瑠だけでなく、一年三組のクラスメイト達も、驚いて思わず声を上げた。

「運動音痴の木偶の坊にはまけないわよ~!」

 こうして、武瑠と詩哉による柚子争奪戦は始まってしまった。
 ただ、現時点で柚子の武瑠への想いは完全に友情だったし、詩哉に関して言えば、まだよく知らない二個上の先輩という認識しかなかったので、どうなるのか、全く分からない。

 この三角関係(男子たちの一方的な片想い)は一体どうなるのか。
 見物である。


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