第一章:一学期①
美波との一連の騒動で、柚子への評価は乱高下したが、結局「若狭柚子はいい子で本当に例の件はただの事故だったんじゃないか」という見解というか認識が広まりつつあった。
そんな四月十七日。
北原野高校の一年一組から一年三組の生徒はそれぞれ組ごとに高校が手配したバスに乗り込んで勉強合宿を行う合宿場に向かっていた。
座席は向かって右側が女子、左側に男子が出席番号順に座っている。
つまり、例の件で仲違いしたものの仲直りした柚子と美波が隣同士ではしゃいでいるのだ。
「残念やったな、若草」
武瑠の隣でニヨニヨしているのは、
入学してから柚子以外と交流していない疑惑のある武瑠だが、意外にもしっかり男子とも交流していて、そのうちの男子で一番仲がいいのがこの山内伊織だ。
しかし、やはり、クラスで一番仲がいいのは柚子である。
「何がやの?」
「柚子ちゃん、百合さんに盗られたやん」
「いや、柚子ちゃんも女の子と交流するやろ」
俺とばっかじゃなく。と言いながらも少し顔には不満がある。
「お前、そういうとこやぞ」
「うん?」
「若狭さーん、若草が拗ねてるで~」
美波と談笑していた柚子が通路挟んで隣の二人組に視線を向けたところで、バスは合宿場に着く。
「山内くん、何?」
バス内を移動しながら前を歩く伊織に声をかけると、また、「武瑠君拗ねてまーす」と茶化すので、少し苛立ちを覚える柚子。
しかし、武瑠の友人なので大目に見ることにした。
「あれやろ?若草君、私に柚子盗られて拗ねてるんやろ?」
バスを降りて集合場所に向かう間で、美波は自分より幾分か身長の高い柚子の腰に纏わりつく。
男子がやったら悲鳴ものだが、女子同士なので微笑ましいし、柚子も笑顔でいる。
その瞬間、武瑠の心に黒いモヤがかかった。
武瑠はなんだが恐ろしくなって、別の事を考えようとしたが、モヤは晴れない。
それが、『独占欲』だと武瑠が気付くのはもう少し先の話。
朝十時に始まった勉強合宿は十一時半には一日目の一限目が終わり、昼食の時間。
柚子と美波の向かい側に、当然のように武瑠と伊織がやってくる。席は自由だ。
「若草君、柚子は渡さんで!」
突然の美波の宣言に、柚子と武瑠は困惑し、伊織はまたニヨニヨと気持ちの悪い笑みを浮かべる。
ふと、武瑠は、美波が女でよかった、と思う。
なんでだろう、なんで彼女が女ならいいのだろう?
疑問も黒いモヤも、消えてはくれない。
「いや、美波あんた私の事嫌いやったんちゃうんか」
「今は大好き」
「はいはい、さよか」
その目の前で繰り広げられる微笑ましい光景に、武瑠の心はザワザワと騒いだ。
「(百合さんが、もし男なら……)」
それは、きっと、恐るべきことだったに違いない。
でも、それは何でだ?
「(柚子ちゃんは、俺のなのに)」
そして、武瑠はハッとする。
今自分は、何を考えたのだろう。
それを知るには、しばらく時間がかかりそうだった。
とはいっても、その日の夜には、それを『恋』だと自覚することになる。
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