第一章:一学期①
入学して数日が経ったある日の昼休み。
柚子と武瑠は図書委員の委員会の初会合に参加するために図書室に来ていた。
「武瑠って、小説とか読むん?」
「あ!俺が漫画ばっか読んでると思ってるよね?ちっちっち、実は小説の方が好きなんだな!」
「へ~、ジャンルはどんなん読むん?」
途端に武瑠の勢いが廃れ、視線をふよふよと宙に彷徨わせるので、柚子はこいつはおかしい、と追及の手を止めない。
「やっぱり漫画しか読まんのか」
「い、いや、小説、好き」
「ジャンルは?」
「……恋愛もの」
柚子の追及に負けて打ち明けたはいいものの、当の柚子がニヨニヨと可笑しな笑い方をするので武瑠はたまらず机に突っ伏した。
耳まで真っ赤だ。
「う~……」
「いやいや、別に馬鹿にしてないやん。可愛いな、って思っただけやん」
「こんな大男に可愛いって言わんとって柚子ちゃん……」
「わはは!」
何と愛らしいやり取りなんだろう。
その場にいた一年他クラスと上級生の図書委員が二人のやり取りの愛らしさに天を仰いだ。
「(尊い……)」
「(しょげないでよベイビー)」
「(恋を夢見るオトメン……)」
「(可愛いな、あの大男)」
「(イケメン女子とオトメン男子萌える!)」
他図書委員の心のざわめきもそこそこに、委員長は遅れてやってきて無情にも委員会初会合開始を宣言したが、いちいち一年三組コンビが可愛いので他図書委員メンバーは気もそぞろだったとか。
委員会の初会合を終え、教室に向かっていると、前方に女子生徒が蹲っていたので二人は顔を見合わせてからその女子生徒に近づいていく。上履きをみると、どうやら同級生らしい。
「大丈夫?」
大きな二人で小さく蹲る小柄な女子生徒をのぞき込むと、その彼女はバレー部との一件でひと悶着あった百合美波だった。
「百合さんやん。大丈夫?」
「……ほっといて」
消え入りそうな声で拒絶したのは、きっとこの間自分が揉めた二人組だったからか。
とはいえ、顔は青ざめ、その場から動けそうにない百合に、柚子は声を潜めて「もしかして、月のやつ?」と聞くが、やはり「……ほっといて」と拒絶されてしまう。
柚子は溜息を吐いて、自分よりも遥かに身長の高く、男である武瑠を見上げた。
「武瑠、百合さん運べる?」
百合は、ぎょっとして顔を勢いよく上げるが、またしおしお、としゃがみこんでしまう。余程つらいのだろう。
「柚子ちゃん、俺、運動音痴やから百合さんごと階段転がり落ちると思うよ」
「ゴメン、忘れてた」
此処は二階で、保健室は一階。階段と言う難関がある。
不穏なのと可笑しいので百合の心の内は忙しないが柚子と武瑠に頼るのだけはしたくない百合は、まだ、拒絶する。
「……ホント、大丈夫やから」
「いや、顔真っ青やから大丈夫ではないやろ。……しゃーないか、ごめん、百合さん」
「……え?!」
柚子が再び自身に近づいてきて身構えた百合だが、自分の身体がふわり、と浮いて、柚子の心配そうな端正な顔が近くにあり……。
百合の顔は、真っ青から真っ赤に変わった。
「わわわわわわ、若狭さん?!」
「わ!柚子ちゃん、かっこいい!」
いや、なんであんたまで赤面してるのや若草君、とか、若狭さん近くで見ると美形すぎてしんどい、とか、私、あんなひどいことしたのに何で助けてくれるんやろ、とか百合の中で色々な感情が浮かんでは消える。
百合は今まさに柚子にお姫様抱っこされて運ばれているのだ。
そんな芸当が出来るのは、柚子の身長が百合より二十センチくらい大きいのと日頃の鍛錬の賜物だろう。
「……私の事、憎くないん」
「いや、あんたにも思うところがあったんやろうし、私がああいう事件?事故?起こしたのは事実やから」
そう告げる柚子の表情に少しも憎しみなどなく、むしろ晴れやかな表情をしていることに、百合はなんだか悔しくなって、自分のやったことが馬鹿らしくて、笑ってしまった。
「はは。若狭さんて、おかしいの」
「え?落とすで」
「ごめんて」
本当に、ゴメン。
心からの謝罪に、武瑠は少し不服そうだったが、柚子はしっかり受けいれた。
そして、百合を保健室まで連れて行って、養護教員に言われるようにベッドに寝かすと、「美波、って呼んでいいから、柚子って呼んでいい?」と上目遣いの可愛いお願いをされた。
柚子は美波の身体を気遣った言葉を告げてから、「これからよろしく。美波」と笑って見せた。
余談だが、凛とした美人が可憐で小柄な女の子をお姫様抱っこで運んでいたことはこのSNS流行時代に拡散されないわけがなく、柚子の評判は鰻登り。
仕舞いには密かに柚子のファンクラブが出来たという噂が武瑠の耳に入り、流石にまた怒るか?と思ったら、彼は「会長誰?語りたい。俺も入る」と言い出し、また、そのファンクラブの会長が美波だったりでまたひと悶着あった武瑠と美波だった。
柚子と武瑠、柚子と美波が心友になった後、ひと悶着もふた悶着もあり武瑠と美波は戦友のような関係になる。
勿論、ファンクラブ云々の話は、この時の柚子は知らない話だ。
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