第一章:一学期①
今日、四月十日は柚子が通うことになっている北原野高校の入学式。
北原野高校は柚子の自宅から自転車で十分の丘の上にある公立高校だ。
特筆して秀でている所もないが、悪い所もない。
素行の悪い生徒が数えるほどしかいないような、しかもその生徒の素行も秀でて悪いわけでもない平々凡々とした高校らしい。
柚子は北原野のそういうところに惹かれて、入学した。
それくらいの所がいい。柚子は思う。
もう何かを争って、友人と蹴落とし合うのは嫌だ。
高校では平々凡々をテーマに過ごしたい。
だがしかし、新学期と言うものは緊張する。そういうものだ。
何も起こりませんように。願いながら柚子は自分の教室に入り、座席表を見る。
どうやら男女混合の名前の順らしい。
「(まぁ、苗字、
案の定このクラスでも一番後ろの席の柚子。
ふと、自分の席の、前の席の男子と目が合った。
「「あれ?」」
その男子と二人して声を上げた。
前の席の男子は今朝ランニングの途中で出逢った大型犬のようなあの青年だったのだ。
「まさか、同じ高校とは……」
「しかも同じクラスで前後とは……」
二人は、ふふふ、と笑い合う。
青年は若草武瑠と言うらしい。
軽く自己紹介をしてくれたので柚子もそれに倣って自己紹介をした。
しかし、こんなこともあるんだなぁと柚子。
なんだか、『運命』のようだ。なんて少しロマンティックな事を思ったけど、そんなことあるわけないか、と雑念を振り払う。
「(そうや、私は、他人を傷つけたんやから……)」
だから、自分は『何か』を期待するわけにはいかない。
でも、友達になりたいとは、思った。
「あの、柚子ちゃん」
「うん?なに?」
柚子が筆記用具や課題などを高校指定のリュックから出していると、武瑠は何故か大きな体躯を縮こませながら、申し訳なさそうに座ってこちらの様子を伺っている。
「席替わる?俺、無駄にデカいから邪魔でしょ?」
確かに武瑠は身長およそ一九〇センチ以上と大きな体格をしているが、柚子も女子にしては一七六センチと大きいのでそんなことは感じていなかった。
なんなら一番廊下側だから黒板とか気にならんよと思って「大丈夫やで、替わらんくても」と答えた柚子に武瑠はホッとしたようだった。
きっと、今までも色々あったんだろうなぁと柚子は感じたので「気遣いだけもらっとく、ありがとお」と笑って見せた。
ふふふ、と可憐に笑う柚子を見て、武瑠の頬が仄かに赤らんでいく。
「?」
今まで男子と関わりがなかったわけではないが、そんなに密に関わっていた過去があるかと言われると否な柚子は武瑠のこの仕草にどうしたんだ、こいつは?と訝しげにしていたが、この瞬間に武瑠の恋が爆誕したことに気付いたのは武瑠の前の席の
しかし、この後、武瑠の『柚子ちゃん大大大好き!』と言う感情は、自然にクラスメイトに知れ渡り、クラスメイトはそんな武瑠を生暖かい目で見ているのだった。
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