第一章:一学期①
時は四月十九日。
一年三組の有志、といっても、ほぼ全員が参加している勉強合宿お疲れ様会inカラオケ。
その欠席の生徒も、部活の関係で仕方なくという具合なので、入学して一週間と少しだが中々のクラス仲の良さである。
しかし、店側のミスで問題が発生し、女子と男子で部屋を分かれる事態になった。
が、ほとんどの生徒が「よしきた!」とガッツポーズをした。
女子は男子には聞かせたくない話を、男子は女子には聞かせたくない話をしたいわけで。
詰まる所、生徒たちは恋の話をしたいのだ。今や、クラスの中心になった柚子と武瑠についての恋の話を。
女子ルームでは、相も変わらず美波が柚子の隣を陣取り、ご満悦である。
「勉強会お疲れ様~!」
「「「カンパーイ!!」」」
乾杯の音頭を取ったのは、一年三組の女子の中でも群を抜いて明るく陽気なバスケ部の女子だ。
その音頭で女子達はジュースの入ったグラスを掲げ、一口飲む。
そして、それぞれ近くの友人たちと口々に話しながらポテトやから揚げなど、パーティ仕様のフードを摘まんでは口に入れた。
そして、歌自慢達がカラオケのデンモクを弄っているのを尻目に、柚子の周りに、何人かの女子が集まってくる。
「ね、ね、若狭さん、柚子ちゃんって呼んでいい?」
「うん?ええで?」
「じゃあ、私も!」
「私も私も!」
その女子達はこの間の夜に別の部屋だった名前の順前半女子達だった。
つまり、昨日の話は聞いていないということで。
柚子は、げっ、もしかしてと苦虫を嚙み潰したような気分になった。
「柚子ちゃんは若草君とあのオネエの先輩のどっちが好きなの?」
「待って待って。武瑠とは友人やし、詩さんの事は少ししか知らないんで……」
女子は揃って、「「「え~~~~!!」」」と悲鳴を上げる。
いや、「ええ~!」って言いたいのはこっちなんだが。と思ったりしてみた柚子である。
「いや、でも、若草君もオネエ先輩もイケメンだし柚子羨ましいわ」
「いや、美波さんまで……」
「ちなみに私は若草君と幸せになってほしい」
いや、だから、友人なんだってば……。と柚子は頭を抱えた。
一方、男子ルームでは。
「イエーイ!カンパーイ!」
「「「カンパーイ!!」」」
サッカー部のムードメーカーが乾杯を宣言して、それぞれデンモクを弄ったり、フードを摘まんだりして各々お疲れ様会を楽しんでいた。
しかし、年頃の男子も恋の話がしたいわけで、年上の彼女持ちの野球部部員や、幼馴染と交際している文芸部男子や、中学の一年後輩に恋をしていてまだ成就していない男子などの話になって、武瑠は、いや、まずいな?このままでは……。と思っているところに、伊織の爆弾発言である。
「武瑠君もなぁ、恋してるもんなぁ?」
「アホ、言うな馬鹿」
「「「ああ、若狭さんか」」」
その反応をしたのは、この間の夜に別の部屋を割り当てられていた男子たちだった。
「待って待って?もしかして柚子ちゃんにもバレてたりする?」
「いや、あの人、割と自分に関心なさそうやからなぁ」
「恋愛感情とか鈍そう」
「ならいいんやけど……」
安堵する武瑠だが、またしても伊織が爆弾を落とす。
「でも、もたもたしてたらオネエさんに盗られそう」
「ぐぬぅ!!」
武瑠は勢いよく頭を抱えた。
恋とはすなわち早い者勝ちなわけで。
しかし、焦って機会を逃すと恋も逃げてしまう。
なかなか難しいものである。
「お、」
「ん?」
しばらくして、柚子と美波がドリンクバーにやってくると、そこに武瑠と伊織の姿があった。
「おっすおっす!若草君、山内君」
「おっすおっす!」
「あ、柚子ちゃん、百合さん久しぶり」
「ふふ、久しぶり」
武瑠は、さっきから散々柚子とのことで揶揄われてきたので少しばかり柚子と会うのは気まずいものがあった。
しかも、隣にはニマニマしている爆弾魔とニマニマしている戦友がいる。
戦友である美波は女子で唯一武瑠の気持ちを知っている存在であるのだ。
「ねぇねぇ、山内君、ライン交換せん?」
「あれ?してなかったっけ?」
「してない~!」
武瑠はなんだか嫌な予感がした。
そして、柚子もなんだが不吉な感じがした。
でも、友人たちが仲良く交流するくらい。と思い、二人はそれぞれドリンクをグラスに注ぐ。
「武瑠はカラオケなんか歌った?」
「一曲二曲くらいは歌ったよ。柚子ちゃんは?」
「私もそんなもんかなぁ」
「柚子ちゃんの歌ってる姿見たいなぁ」
柚子は、目をぱちくりする。
そして、にこっと笑った。
「(可愛い)」
「交換する?」
「え?」
「私らもライン交換する?」
「うん!」
こうして、武瑠は意中の女子から連絡先を聞き出し、ご機嫌で男子ルームに帰って行ったが、伊織もまた同じく意中の女子と連絡先を交換出来てルンルンの上機嫌だった。
しかし、武瑠のエピソードだけが大きく捉えられ、男子ルームは時間終了までお祭り騒ぎのままだった。
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