雨と姫
今日は、春雨さんに誘われて、楽器屋さんと音楽スタジオに行くことになった。
両親が貸してくれた、少し心もとない費用を握って、私は待ち合わせの駅前に向かう。
「あ……」
時計台にはもう春雨さんが来ていて、女性陣の視線を攫っている。
立っているだけで絵になる。それもこの人に相応しい言葉だ。
「よう、桜子」
「おはようございます、春雨さん」
すると、春雨さんは、ギっと私を睨む。
え、私、何かした?
「名字で呼ぶのはヤメロ」
「え、でも……」
「蒼依って呼べ。じゃなきゃ返事しねぇかんな」
男子と交流の浅い私には無理な注文だなぁ。恥ずかしいんだけども。
「なんで、名字嫌いなんですか?」
春雨さんは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
なんとなく、その理由は分かってるけど、私は少し意地悪をしてみようと思った。
要はいろんな彼を見たいのだ。
「……白斗っていう幼馴染にさんざん揶揄われてるんだよ。『季節が変わるだけで雨は美味しくなるんだよなぁ』って」
私は思わず吹き出して大笑いしてしまった。
いや、失礼にもほどがあるけど、いや、上手い事言うなぁ秋雨さん。
私がクスクス笑ていると、春雨さんは私の頬を軽く摘まむ。
「い、いひゃいれす」
「笑うな。さっさと蒼依って呼べ」
拗ねた春雨さんも、可愛くて。
「……蒼依くん」
「くんは無しだ」
「無理です」
「じゃあ、百歩譲って敬語なしだ」
此処は言うとおりにしておこう。
私は敬語で話すのを辞めた。
「ギターなんだけど、なんか希望あるか?」
「いや、あ、レスポールタイプのギター可愛いよね」
「レスポール、なら、ギブソンか」
ギブソン。
いくらするか分かってらっしゃるのだろうか?
あれは一本数十万する奴ですぞ。
「いや、ギブソン買うようなお金ないけど」
「じいさんから資金の援助は受けてある。俺はギブソンのこのボディのだし、お前はこれとかにするか」
こ、この、か、金持ち~~~~~。
しかもしれっと、自分と色違いの奴を買おうとしてませんか?
しかし、正直ギブソンを持てるなら嬉しいことは嬉しい。
ずっと憧れてたギターだから。
それに蒼依くんのギターとお揃いなら、色々頑張れるような気がする。
そして、楽器屋に着いたはいいけど、そこらの街中の雑居ビルの楽器屋じゃなくて、会員制の立派なショップで私は一回考えを巡らせるために立ち止まった。
いや、待って。
会員制の楽器ショップって何。
蒼依くんのブルジョワ~~~~~~~!
「どうした、桜子」
「いや、格の違いを見せつけられて泣いてる」
「はは、泣くなよ」
その後は、私は蒼依くんの仰せのままに状態で、結局蒼依くんのギターとお揃いのギブソンを買ってもらった。
「蒼依くん、何かお返しさせて」
スタジオに向かう途中、私は彼にそういってお願いした。
蒼依くんは一瞬考えて、誰も彼をも魅了するような男らしく優しい笑顔で言った。
「じゃあ、ずっと、俺の姫でいてほしい」
蒼依くんは王子様がお姫様にするように、私の手の甲に口づけた。
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