雨と姫


「あの子だったらいいんじゃない?蒼依くん」
「あの子の声、とても可愛らしかったです」
「……私たちも気に入ったわ」

 カフェ櫻からの帰り道、幼馴染の姫たちは口々に例の彼女の事を褒めちぎった。

「いや、まだ、あの子って決まったわけがねぇから」
「でも、あの子がいい~って顔してたぞ~」
「っ!!」

 俺は、白斗のそうやって人を馬鹿にするところが嫌いだ。
 馬鹿にするというか、茶化す、というか。
 もう何年って一緒にいるけど、そこだけは嫌いだった。

 そして、そういって揶揄われるときは、大概図星な俺である。

「でも、あの子、他校の子だったよね?」
「あ~、確かに。うちの制服じゃなかったな」

 そこは、俺も気になっている所だった。
 何故、じいさんは他校の女の子を『春姫』にしようとしているんだろう。
 まあ、俺は他校の子だとしても、あの子なら、って思うけど、ファンはどう思うか分からんよな。志季帝学園のブランドと共に俺たちはあるんだから。

 でも、じいさんは無意味な事はしない主義。
 何か思惑があるんだろうと幼馴染たちと別れてから独り考えを巡らせていた。

 その次の日。
 俺のクラスに編入生が来るらしい、という噂が広まって、もしや、と思って身構えていたらやはりあの子だった。

「佐保川桜子、です。よろしくお願いします」

 そうか、編入!
 じいさんは彼女……、桜子を学園長の肩書きを乱用して編入させたんだ。
 だとしたら、志季帝学園の生徒じゃなかった桜子でも、ファンから認められる可能性はある。
 俺は、ホームルーム終わりに、衝動的に彼女の席に近づいて行って、宣言した。

「佐保川桜子」
「は、はい……」
「俺の姫になれ」

 その瞬間、教室のあちこちで絶叫に近い悲鳴が。
 いや、五月蠅いんだが。

「あの……」
「なんだ」
「わ、私なんかに、なれるんでしょうか……」
「とりあえず、これを受け取ってくれ」

 俺は桜柄のギターピックを桜子に差し出した。
 しかし、桜子は、手を伸ばそうとはしない。

「どうした」
「す、少し、考えさせてください」

 ごめんなさい。そういって桜子は俺が差し出した求愛を拒んだ。
 でも、「考えさせてください」だから、見込みがないわけじゃないんだよな?

 俺は一旦その拒絶を受け入れ、引き下がった。
 そして、桜子をもっと知ろうと、彼女の授業態度なんかを見ていたが、どれも見惚れるほど優等生だった。

 特に音楽の授業では、他校出身だと難しいだろうなというものでも軽々こなすのである。しかも、歌声が、綺麗で。
 惚れ惚れするような美声で、色んな感情を上手く表現して歌う、そんな感じがした。

 ああ、なんだ、この気持ち。
 今、物凄く感情が昂っている。
 ずっと、頭の中に桜子がいる。

 この気持ちが、愛おしい、と言うものなのだろうか。
 やはり、じいさんには頭が上がらない。

 こんなにも誰かを想ったのは、初めてだった。

 桜子、どうか、俺を拒絶しないでくれ。

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