雨と姫


 ある日の学校帰り。
 俺たちは、七人で仲良く歩いていた。
 そう、仲良く。俺だけが疎外感を感じながら。

「春姫見つかんないなぁ」

 そういって、天を仰ぐのは、『レイン』のギター担当、炎也。
 隣で蓮華が胸の前で腕を組んでうんうん頷いている。

「蒼依氏の好み難しいよね」

 ひひひ、と引き笑いしながら言ってくるのは、『レイン』ベース担当の玄師。
 いや、恋人にするなら一切妥協するべきじゃないだろう。
 お前らも心から相手が好きだから付き合ってるんじゃないか。
 と言いかけて俺は辞める。

 そして、ドラムの白斗は喧嘩を売ってきた。

「蒼依の性格の問題じゃねぇの?」

 いや、蘭香と付き合う前、女遊び激しかったお前よりはマシですが。
 まあ、結構独特な性格してるって言われるけど、さ。
 え、マジで俺の性格のせい?

「そもそも、蒼依くん、女の子は近づいてくるのにな」

 その中から選べって言うのは無理な話ですぜ、蓮華さん。
 あいつらは、俺の肩書きに好意を抱いてるだけだし。

「意外にも純愛をお求めなのですね」

 いや、蘭香さんや。
 意外にもってなんやねん。
 何回も言うけど俺は俺が好きになった奴としか付き合わねぇかんな。

「……まぁ、私たちは今のままでも全然いいから、ゆっくり探して」

 やっと聞けた優しい言葉。
 椿姫さんはクールでたまに厳しいことも言うけどこういう時は優しいんだよな。

ただ、俺が焦っていることは間違いなかった。
『四季姫』のメンバー云々より、恋人を欲しているのだ。
 俺だけを見てくれる、女の子。

 どっかにいねぇかなぁ。
 と思いつつ、帰宅して自室にいると、学園長である祖父が俺の自室に入ってきた。
 しかも、えらくニヤニヤしている。
 えー、気持ち悪い……。

「喜びなさい、蒼依。春姫をおじいちゃんが見つけといてやったぞ!」
「は?」

 いや、俺は俺が好きになった子を春姫にしたいんだが。
 しかし、じいさんはノリノリの押せ押せで、明日ある場所に行きなさい、という。
 どうやら『四季姫』の曲のメロディに歌詞をつけて歌ってたかわいこちゃんがいたらしい。いや、かわいこちゃんって……。

 俺は、渡された紙切れに書かれた住所をスマホに打ち込み、検索する。
 どうやらカフェのようだった。
 仕方ねぇな。明日、帰りにでも行ってみるか。
 偉大なじいさんには頭が上がらない俺である。

 翌日、帰り道。

「いや、なんで?」
「「「ん?」」」

いや、ん?じゃないんだわ。
 なんで『レイン』『四季姫』みんなで訪問しなきゃならんのだ。
 しかも、基本表情の変化の乏しい椿姫以外はニヤニヤしてるし。

「茶化しに来たなら帰れ」
「いやはや、蒼依氏、僕たちがいた方がフォロー上手くいくから」
「悪かったな、女の子の扱い下手で」

 俺は一人っ子だし、身近に女子がいるようになったのは去年からなので、どうも、女の子の扱いが分からない。
 しかも、近づいてくる女と言うと、腹に何かを抱えた陰謀女しかいないし、そういう女に冷たくする癖が抜けず、普通に俺を好いてくれてた子を泣かせたことがある俺だ。

でも、本気で『俺』を好いてくれる女の子なんて、いるんだろうか。
 あーあ、なんか、憂鬱になってきたな……。

 しかし、尊敬するじいさんからの紹介だし、行かなければならない。
 せめて、具体的にどんな子なのか説明してから帰れよ、じいさん。
 そうやって、ずっと、悶々としながらカフェ櫻に向かう。
 カフェ櫻はこじんまりとした建物でひっそりとお客が来るのを待っていた。
 決してめちゃくちゃ流行ってて長蛇の列ができているような感じではなく、知る人ぞ知る、みたいなカフェ。
 でも、なんだろう、それが逆に俺は惹かれた。

「蒼、いくぞ~?」
「ああ」

 炎也がカフェ櫻の扉を開ける。
 狭い店内では二組ほどしか客はおらず、しかし、魅惑的なパンケーキやワッフルを食べている。

「いらっしゃいませ!」

 俺たちの元にやってきた店員は、俺たちとそんなに変わらないくらいの年齢の女の子だった。

「七人だけど、席行けそう?」
「あ、はい!こちらに!」

 なんだか、ぴょこぴょこ歩く女の子だと思ったのと、この子、すげぇ声がいい。
 心地いいソプラノで、初めて会ったのにこんなにも安心できる。
 もしかして、この子が、春姫候補?

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