雨と姫


 『レイン』(別称、四季帝)とそのメンバーの恋人たちで結成された『四季姫』というバンドを地元で知らない人はいないほど、彼らにはカリスマ性があった。
 定期ライブとかでも会場には満員以上のファンが志季帝学園の校内外から見に来るほど巷で人気のそのバンドに、彼らとは通う学校の違う私、佐保川桜子さほがわさくらこも惹かれ夢中になっている一人だ。

 特に、『レイン』のギターボーカル、春雨さんは魅惑的なハスキーボイスで、そして類まれなるギターテクニックで、世の女性陣をメロメロにしている。
い、いや、べ、別に私は彼をそんな変な目で見てたりはしないけど、そういう女の子も多いらしい。
 まあ、美青年、ってあの人の事を言うんだろうなっていう整った顔立ちだしなぁ。

 魅惑的なハスキーボイスに、整ったお顔、スラっとしながらも少し筋肉質なのが服の上からでもわかる逞しい体躯。そして、少し?俺様な御曹司、と来れば。
 どこぞの漫画の王子様かって、私でも、思うんだもんなぁ。

 恋に夢見てるお嬢さん方なんかコロっと落ちちゃうよね。

 まあ、そんな人の『姫』になんか、何もかもが平々凡々な苦学生の私はなれないんだろうな。

 あの人たちが太陽なら、私は蟻くらいのちっちゃい存在感だし。
 もしかしたら、塵以下かもしれない。ははは。

 でも、私も、輝いてみたい。
 そう思っていたら、インストバンドである『四季姫』の曲に勝手に歌詞なんか作ってしまってた。
 私、結構危ないところまで来てるなぁ。って溜息を吐いてたら、母が慌てて私に郵便物を届けに来たんだけど……。

「え、志季帝学園から?」
「あんたなにしたの?あ!あの曲に歌詞付けたのがバレたんじゃない?!」

 ぎゃあ。
 もしかして、これは著作権法違反で通報します的な、封書?
 もし、そうだとしてもしなくても、幼等部から大学院まで著名人の子息しか通えない学園から私の所に封書が来るなんて、おかしすぎる。

 私は平々凡々だし、家族も平々凡々。
 両親と私でカフェを切り盛りしてるけど、決して流行ってないし。

 私は母と一緒にリビングに降りて行って、父にも開封の儀に付き合ってもらうことにした。

「いくよ」
「ああ」
「いいわよ」

 封筒の中に入っていたものは。

「……願書?」

 しかも、音楽科専用の編入の願書だった。
 なんで?音楽科って言ったら例の二組のバンドメンバーも通っている学科じゃん。

「桜子、学園長から手紙入ってる」

私は、恐る恐る父からそれを受け取って、恐る恐る開いた。
ボールペン字の講座のお手本みたいな美文字で、ようするに、「うちの学園の人気バンドの曲に歌詞付けてくれたんだね!ありがとう!!折角だから、作詞家兼春姫になっちゃいな!」的な事が書かれていた。
学園長いくつだっけ?やたらハイテンションだな。

「え、っていうか、いつ歌詞作ったの知ったの?学園長」

 アッ、もしかしたらちょっと気分のいい日に学校の帰りに歌いながら帰ってたからかな……。
 最早、原因はそれしかない。

 でも。
 なれるなら、なりたいけど。

 私なんかが、あの人たちと並べるの?
 私なんかが、あの人の恋人になるの?

 恋人、ってそうやってなるんだっけ?

 いくつかの疑問はあれど。
 私は決めた。
 志季帝学園の編入試験を受ける。

.
2/11ページ
スキ