雨と姫


 突然だが、どうやら、桜子が嫌がらせを受けているらしい。
 情報元は、学園の情報捜査部。信頼できる筋だ。
 俺はいつもより早く登校して、桜子の靴箱を見に行った。

「……最悪すぎるだろ」

 そこは、ごみや汚い雑巾で埋め尽くされていた。
 桜子はこの学園にきてまだ日が浅い。
 なのに上靴が少し薄汚れていたのは、このせいか。

「くそ……」

 犯人は、その情報捜査部によれば俺のファンクラブの人間や、春姫を目指していた女子。
 彼女は敵が多かった。色んな思惑から俺に取り入ろうとする人間が多いからだ。
 だから、俺が守らなきゃいけないのに、それを怠ってしまった。
 悔やんでも、悔やみきれない。

 俺はとりあえず桜子が来る前に靴箱の掃除をした。
 春雨家男子たるもの、このくらいどうってことないぜ。

 そして、綺麗になった靴箱に、購買で同じサイズの上靴を買い、入れておいた。
 また白斗あたりに甘やかしすぎだのと言われてしまうかもな。

 そして、教室で待っていると、不思議な顔をした桜子が登校してきた。

「桜子、おはよう」
「おはよう、蒼依くん」
「どうかしたか?」
「いや、蒼依くん、上靴に何かした?」

 さあな。と薄笑いを浮かべると、桜子は、「え、なにかしたの?」と困惑していた。
 しかし、そんな表情も、愛らしい。



 放課後。
 俺はある人物たちを呼びだした。
 情報捜査部から聞いた、嫌がらせの主犯たちだ。

「蒼依様、あの女の事追放する気になったのですか?」

 一番に声を上げたのは、俺のファンクラブ会長で有名女優の娘だ。
 美人だが、性格は天上天下唯我独尊なわがままプリンセス。
 一時期、頻繁にラブコールを受けていたが、最近来ないと思えばこんな低俗なことに興じていたのか。

「お前らが嫌がらせしてたことで間違いないな?」
「嫌がらせ?いやですわ。あんな薄汚い女にはああいうのがお似合いでしょう」
「そうか」

 その瞬間、上の階から、バケツをひっくり返したような雨。
 いや、実際上の階にいた白斗が水の入ったバケツひっくり返したんだけど。

「じゃあ、下劣なお前らはそれがお似合いだな」
「なっ!?」
「桜子にもう一度嫌がらせしてみろ。この学園から追放してやる」

 まあ、何を隠そう、俺は学園長の孫だしな。
嫌がらせ女たちは顔面蒼白の上びしょ濡れで走り去っていった。

「かっこいい~、蒼依くん!」
「茶化すな白斗」

 その次の日から、嫌がらせはピタッと止んだみたいで、俺は安心した。

その後。

「蒼依くん、なにかした?」
「何が?」
「……」

 桜子は、面白くなさそうな顔をして呟いた。

「……あなたの株を、落としたくない」
「俺の株はこれくらいで落ちる株ではないぞ」
「なにかしたでしょ」
「知らないな」

 知らぬ存ぜぬな俺に、桜子は少しの間瞳を瞑って、そして、意志の強い光をともした瞳で俺を真正面から見つめる。

「私、貴方の姫でいて恥ずかしくない女になります」
「もうなってるが」
「じゃあ、もっと、高みを目指します」

 例えばメジャーデビューとか、新人賞とか、という桜子の意思は固かった。

「ふっ、流石俺の姫。益々惚れたぜ」

 そんな俺たちが交際を開始したのはもう少し大人になってからだった。

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