雨と姫


 志季帝しきみかど学園は幼等部から大学院までのエスカレーター式の名門校で、著名人の子息以外入学困難。余程のことがない限り一般庶民は受け入れない。
 その学園長の孫息子である俺、春雨蒼依はるさめあおいと各界の著名人の孫や子息である幼馴染三人、世界的ロックバンドのギタリストの父を持つ五月雨炎也さみだれえんや、超有名音楽プロデューサーの父を持つ秋雨白斗あきさめはくと、創業二百年の老舗旅館の経営者の祖父を持つ氷雨玄師ひさめげんしは幼等部の頃から周りの生徒たちから一目置かれていた。

 仲のいい俺たち四人組の内二人が音楽関係の仕事をしている父を持つ子息で、俺と玄師も教育上幼いころから様々な音楽を嗜んでいたことから、俺たちは音楽に親しみを持っていた。
 そして、親しみがあるからこそ上達も早く、そんな俺たちを見た家族は、せっせと俺たちにバンドを組むように仕向け、それぞれに相棒を持たせた。

 弄られキャラな時もあるがリーダー的存在だった俺はギターボーカル、賑やかな炎也はギター、男らしく逞しい白斗はドラム、オタクでやや変人の玄師はベース。

 初等部高学年から始めたその活動の過程で、俺たちは学園名を文字って、四季帝しきみかどと呼ばれるようになった。
 春を司る俺は蒼帝、夏を司る炎也は炎帝、秋を司る白斗は白帝、冬を司る玄師は玄帝。
 名前を文字って付けたのかと思ったら、神話の春夏秋冬の帝たちがそう呼ばれていたらしい。
 誰がそんな事調べたんだろう、と疑問に思ってたら、この学校、国文系だと考古学の権威の子息とか、文学関係の権威の子息とかもいるんだったという結論に至った。

 まあ、そんな幼馴染の俺たちはめちゃくちゃ仲良くて、俺はこの四人でずっと音楽をやっていくと思ってた。なのに。

 最初に照れたように恋人である蓮華れんげを連れてきたのはギターの賑やかな男、炎也だった。

「はじめまして。私が好きなのは女の子と炎也です」

なんとぶっ飛んだな自己紹介だろう。
 でも、まぁ、炎也が幸せなら、と深くは考えていなかった。

 しかし、炎也に続いて、女好きで有名な白斗が小柄で可憐な蘭香らんかと一緒に帰るようになり、俺たちに「こいつ、俺の」と紹介してきたときは少し引いたし、オタクで変人と言われている玄師に女の影が見えてきて俺、炎也、蓮華、白斗、蘭香で探偵まがいな事をしていると、軽音部の部室に凛とした美人がやってきて「……うちの玄師がお世話になっています」と言い放ったときにはさすがの俺も焦った。それが玄師の恋人、椿姫つばきとの出会いだった。

 そして、俺は今も焦り続けている。

 他の幼馴染が恋人を見つけ、あまつさえ、その恋人に自分の楽器と同じ楽器を持たせ、『四季姫しきひめ』と名乗らせてバンド活動を始めさせたのだ。

 春の姫、つまり俺の恋人は相変わらずいないので、ボーカルはいない。
結成当時、『四季姫』は所謂インストバンドだった。

 そのお披露目ライブで、俺は焦った。
 小柄で可憐で清楚な蘭香が白斗を彷彿とさせる野性的で挑戦的なドラムの演奏をしたのだ。他の二人も、どこか俺の幼馴染を感じさせる演奏で、俺はなんだか切なくなった。羨ましくなった。

 なんで、俺には恋人ができない。
 なんで、春姫は現れない。
 どうでもいい女は近づいてくるのに、なんで俺が求めているヒトは現れないんだろう。

 他の幼馴染たちが恋人と楽しそうにしている近くで俺は独り疎外感を感じていた。

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