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愛しみんなへ

僕は僕のことが一番大好きで、それで大丈夫だと
そんな風に思っていた時期が…僕にもあった。


僕が見せるパフォーマンスと、僕の外見が「芸名」の僕を創っていて
その僕を大勢の人が好きだと言って応援してくれている。
 
だから僕は立ち止まることが出来ないし、
ただひたすらに前を向いて進んで行くことが僕の生きる道だと理解していた。
応援してくれる人がいるから、芸名の僕という人間は存在している。
そして本来の僕と芸名の僕はもうとうの昔に融合していて、
その境目は僕にすら分からない。

時折過る不安はいつも一瞬で消え去る。

楽しい事の方が多く、今の僕は充実している。
いつまでもいつまでも
この愛おしい日々が続いて欲しいと願う。

でも、人はいつか必ず死ぬ。
その前に老いる。
5年後、10年後の自分を想像してみるけど、リアルじゃない。
信じないわけじゃないけど、今日、応援してます、というみんなが
10年後の自分を応援してくれるとは思えない。
きっとそれが現実だ。

大勢の愛を一身に受けて、幸せな今のまま…
「時が止まればいい」

声に出して呟いてしまった。


トントン、とドアをノックする音に我に返った。
「リハーサルの時間なのでスタジオへご案内します」
顔を出したのは若いアシスタントディレクターだ。

不慣れな楽屋で一人でいたせいか
ついついいろんなことに思いを巡らせてしまっていた。

初ドラマ主演の番宣の為の情報番組の収録だった。
僕は促されるまま楽屋を出て、ADさんのあとを付いて行く。

途中の廊下で幾人かの芸能人やその周りで会話しながら歩く人達とすれ違う。
テレビ局なんて、足を踏み入れる以前はどんなに煌びやかな場所だろうと勝手に想像していたけれど
中に入ってしまえばそれぞれの仕事場でしかない。
夢のような場所なんて、現実には無い。

エレべーターを降りいくつかのスタジオを通り過ぎ、目的地へ到達する。

案内してくれたADさんが目の前の扉を開けてくれると
すでに大勢のスタッフさんたちがざわざわと準備し、
概ねカメラの配置も終えた収録現場が現れた。

いつも思う。一本の収録にこれほどの大勢が関わっているなんて
みんなは知らないだろうな…て。
画面に映るのは自分だけだったとしても、それはあらゆる準備の上で
自分が映し出されているだけのことなんだ、と。

「よろしくお願いします」と挨拶をしスタジオ内へ入ると
プロデューサーさんが気付き声を掛けてくれた。
情報番組の司会者とレギュラーコメンテーターさんたちが座る場所へと案内される。

コの字に組まれた長机の中央席にそのままプロデューサーさんが座る。
それを合図のに、隣に番組の放送作家さんが座り
大勢いるADさんたちのチーフさんらしき人や
カメラ、照明、音声関連の機材チーフさんたちが集まってくる。
僕も促されて他の出演者の近くに座った。

大きなスタジオ内の片隅で最終打ち合わせが始まる。
大筋のシナリオを追いながらの、いわゆる段取り確認だ。

素人の僕には半分くらい暗号のような会話で、
カット割りやそれごとのキャストへの細かい動作確認、
カメラ位置や機材担当への指示出しが決まっていく。
この人たちはプロなんだなぁと、毎度関心する。

生放送ではないので、自分のようなゲストタレントの収録が終わると
そのあとは延々と必要なカットをメインキャスト含め、物撮りが行われる。
どんな短い番組もそうやって大勢の人間が関わって出来上がっている。

もちろん僕は、そのころにはとっくに「お疲れさまです」と
スタジオを後にしているんだけれど…

局を出るとすでに夕暮れ時だった。

朝はマネージャーの運転する車でここまで来た。
でも帰りは地下鉄で帰ることにした。
一人になりたい気分だった。

何週間もかけて練習して、
何か月も日々を共にする仲間のいる舞台の仕事とは違い、
TVの仕事の印象は…僕にとってはなんとなく冷ややかだ。
緊張はしないタイプだけれど、
慣れないせいか終わるとどっと疲れを感じる。

こんな夜はみんなに会いたいなぁ…と思う。

僕を思い、僕を応援してくれるみんな。
それぞれに家族がいて、僕への思いはもしかすると一番じゃないかもしれない。
でも、ただ一心にキラキラとした眼差しを向けて
垢の他人の僕を好きだと言ってくれるみんなの為に
僕は生きていると思う。

今、僕を支えてくれているその優しい気持ちが
最後の一人になるまで…
僕は僕の道を歩いて行きたい。

電車を降りる頃には星がでてるかな…


『帰り道、夜空を見上げたよ。
みんなも同じ星を見てるかなぁて思ったら、元気が出た。
今日もお疲れさま、明日も頑張ろうね。おやすみ!』

毎夜のツイは僕自身へのエール。






2022.0901


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