幸せの共有
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その10.5 、ゆるやかな絆
~side story~
「来てくれるなんて…思わなかったわ。
…急だったのにありがとう」
目の前のその人は
退団する私を見送ってくれた
2年前の優しい笑顔のままだった。
「…久しぶり、まきさん。
連絡、嬉しかった。
…懐かしくて」
私は彼女の滞在するホテルの部屋へ来ていた。
ロビーに着いた時、くみちゃんからのLINEが届いた。
『帰りは何時頃になりそう?
~駅前のスーパーに寄って帰るね』
ていう可愛らしい内容。
今日から彼女と暮らす、そんな始まりの日だった。
ふわふわとした笑顔が目に浮かび、
微笑ましくて、愛しくて
スマホ画面の文字に笑みがこぼれた。
『今から今日最後の取材』と言ってウソのLINEを返したのは
今の幸せを、守りたかったから。
私は随分身勝手なヤツなんだ…
まきさんは私のパトロンだった人。
彼女のおかげで
私の宝塚人生の後半は何不自由なく過ごす事が出来た。
買いたい物は全て、彼女に作ってもらったクレジットカードで決済出来たし、
代表さえ介さずに連絡を取り、
…そう、私が一方的に甘えていた。
彼女に見返りを求められた事はない。
だから、二人きりの食事に誘った。
それがマナーだと。
見返りを求めないなんてことはあり得ないと思っていたんだ。
そんな世界に生きていた。
「退団してから…カード、使ってないのね。
あなたの新しい人生のスタートに過去は必要ない…
だから、連絡もしなかったの。
…お仕事も順調そうで安心してる」
大人の彼女は、
退団後音信不通になった私を責めるわけでもなく
ただ、
優しい目で私を見上げていた。
確かに、私は生まれ変わろうとした。
一度全てをリセットする必要があった。
「嫌いになったわけじゃない」
そんな言葉が口をついて出た。
「いやだ、かいちゃん。
私、好きだって言ってもらったこともないわよ?」
キレイな顔でクスリと笑う。
いつだってどこか寂しげな表情なのも変わらない。
「私は…、かいちゃんに慰めてもらっていただけ。
悪いのは私。
かいちゃんは何も気にする事はないわ」
そう。
彼女は大金持ちの奥様で、何でも持っていて
手に入らない物なんて無くて。
だから、私にも執着しなかった…、ただ、それだけのこと。
「まき、さん…」
ゆっくりと近付いた私から逃げるわけでもなく、
彼女は私の腕の中に収まった。
2つも歳を重ねたなんて、
信じられないほど彼女は瑞々しくて…
抱きしめると、直ぐにあの頃へ戻れるような気さえした。
現役時代は…彼女の滞在するホテルの部屋が密会場所だった。
いつの日か、
私が誘ったあの日から。
大人の彼女なら何もかもを受け止めてくれそうな気がして
私は、自分を解放する道具に
…彼女の好意を利用したんだ。
「知ってると思うけど、
私はかいちゃんが好きなの…
恋じゃない、愛よ…?」
あたしの胸の前で頬を埋めたまま、囁くような声で呟く。
「一方的な愛…
私は…あなたが幸せでいてくれるならそれでいい。
…明日からパリなの。
今度は本当に長くなりそうだから…
連絡しちゃった。
…ごめんなさい」
「治安…、良くないみたいだけど大丈夫なの?
行かないとダメなの?」
私は小さな彼女の体を抱きしめた。
私が好きだと言ったエルメスの香り。
「私の意思は無いの。
あの頃も、今も。
着いて行くしかないの」
だから私は…この人の儚い手を離したくなくなるんだ。
何もかもを持っていて、何も望まず、何もかもを諦めたような彼女を。
「だめよ…っ
ごめんなさい、呼び出したくせに。
…そんなことしたら、私…明日ここを発てなくなるわ」
首筋にキスをして、
やわらかい身体にまとわりつく薄い布ごと太ももを撫で上げた私を
彼女はとっさに押しやった。
その細い腕を掴み、
ベットへ押し倒した。
「行きたくなければ行かなきゃいい…っ」
その言葉がどれほど無意味なのかは
彼女以上に私の方がよく分かっている。
私は彼女に可愛がってもらっていた…ただの役者だ。
彼女は私に抵抗したことはない。
いつだって優しく、
私を受け入れてくれた。
私の好きなように、
したいように。
彼女によって、はじめて私は解放されたんだ。
あの頃と同じように、彼女を抱いた。
腕の中の彼女は
白いカラダをうねらせ、私の名を呼び、私を感じ…私を受け入れた。
寂しいのは彼女なのか、私なのか。
果てた彼女を抱き止め、私は泣いた。
彼女を慕い、彼女が願ってくれるのと同じように
私も彼女の幸せを願ってる。
だけど、
私たちが同じ人生を歩むことは無い。
「大好きだよ…まきさん」
私はホテルを出た。
好きだと、思っていないから言わなかったわけじゃない。
あの頃は
そんな必要は無いと…思ってた。
外の風が思いのほか冷たくて
あまりにも寂しくて
以前のように何気ないLINEを送って終わりにしようと思った。
『会えて嬉しかった。
…また、今度』、て。
~side story~
「来てくれるなんて…思わなかったわ。
…急だったのにありがとう」
目の前のその人は
退団する私を見送ってくれた
2年前の優しい笑顔のままだった。
「…久しぶり、まきさん。
連絡、嬉しかった。
…懐かしくて」
私は彼女の滞在するホテルの部屋へ来ていた。
ロビーに着いた時、くみちゃんからのLINEが届いた。
『帰りは何時頃になりそう?
~駅前のスーパーに寄って帰るね』
ていう可愛らしい内容。
今日から彼女と暮らす、そんな始まりの日だった。
ふわふわとした笑顔が目に浮かび、
微笑ましくて、愛しくて
スマホ画面の文字に笑みがこぼれた。
『今から今日最後の取材』と言ってウソのLINEを返したのは
今の幸せを、守りたかったから。
私は随分身勝手なヤツなんだ…
まきさんは私のパトロンだった人。
彼女のおかげで
私の宝塚人生の後半は何不自由なく過ごす事が出来た。
買いたい物は全て、彼女に作ってもらったクレジットカードで決済出来たし、
代表さえ介さずに連絡を取り、
…そう、私が一方的に甘えていた。
彼女に見返りを求められた事はない。
だから、二人きりの食事に誘った。
それがマナーだと。
見返りを求めないなんてことはあり得ないと思っていたんだ。
そんな世界に生きていた。
「退団してから…カード、使ってないのね。
あなたの新しい人生のスタートに過去は必要ない…
だから、連絡もしなかったの。
…お仕事も順調そうで安心してる」
大人の彼女は、
退団後音信不通になった私を責めるわけでもなく
ただ、
優しい目で私を見上げていた。
確かに、私は生まれ変わろうとした。
一度全てをリセットする必要があった。
「嫌いになったわけじゃない」
そんな言葉が口をついて出た。
「いやだ、かいちゃん。
私、好きだって言ってもらったこともないわよ?」
キレイな顔でクスリと笑う。
いつだってどこか寂しげな表情なのも変わらない。
「私は…、かいちゃんに慰めてもらっていただけ。
悪いのは私。
かいちゃんは何も気にする事はないわ」
そう。
彼女は大金持ちの奥様で、何でも持っていて
手に入らない物なんて無くて。
だから、私にも執着しなかった…、ただ、それだけのこと。
「まき、さん…」
ゆっくりと近付いた私から逃げるわけでもなく、
彼女は私の腕の中に収まった。
2つも歳を重ねたなんて、
信じられないほど彼女は瑞々しくて…
抱きしめると、直ぐにあの頃へ戻れるような気さえした。
現役時代は…彼女の滞在するホテルの部屋が密会場所だった。
いつの日か、
私が誘ったあの日から。
大人の彼女なら何もかもを受け止めてくれそうな気がして
私は、自分を解放する道具に
…彼女の好意を利用したんだ。
「知ってると思うけど、
私はかいちゃんが好きなの…
恋じゃない、愛よ…?」
あたしの胸の前で頬を埋めたまま、囁くような声で呟く。
「一方的な愛…
私は…あなたが幸せでいてくれるならそれでいい。
…明日からパリなの。
今度は本当に長くなりそうだから…
連絡しちゃった。
…ごめんなさい」
「治安…、良くないみたいだけど大丈夫なの?
行かないとダメなの?」
私は小さな彼女の体を抱きしめた。
私が好きだと言ったエルメスの香り。
「私の意思は無いの。
あの頃も、今も。
着いて行くしかないの」
だから私は…この人の儚い手を離したくなくなるんだ。
何もかもを持っていて、何も望まず、何もかもを諦めたような彼女を。
「だめよ…っ
ごめんなさい、呼び出したくせに。
…そんなことしたら、私…明日ここを発てなくなるわ」
首筋にキスをして、
やわらかい身体にまとわりつく薄い布ごと太ももを撫で上げた私を
彼女はとっさに押しやった。
その細い腕を掴み、
ベットへ押し倒した。
「行きたくなければ行かなきゃいい…っ」
その言葉がどれほど無意味なのかは
彼女以上に私の方がよく分かっている。
私は彼女に可愛がってもらっていた…ただの役者だ。
彼女は私に抵抗したことはない。
いつだって優しく、
私を受け入れてくれた。
私の好きなように、
したいように。
彼女によって、はじめて私は解放されたんだ。
あの頃と同じように、彼女を抱いた。
腕の中の彼女は
白いカラダをうねらせ、私の名を呼び、私を感じ…私を受け入れた。
寂しいのは彼女なのか、私なのか。
果てた彼女を抱き止め、私は泣いた。
彼女を慕い、彼女が願ってくれるのと同じように
私も彼女の幸せを願ってる。
だけど、
私たちが同じ人生を歩むことは無い。
「大好きだよ…まきさん」
私はホテルを出た。
好きだと、思っていないから言わなかったわけじゃない。
あの頃は
そんな必要は無いと…思ってた。
外の風が思いのほか冷たくて
あまりにも寂しくて
以前のように何気ないLINEを送って終わりにしようと思った。
『会えて嬉しかった。
…また、今度』、て。