その日 三和が幸子に話しかけてきたのは必然だった。
「木梨、ちょっといいか？」
「……うん」
三和の視線が一瞬だけ主のいない席に動いたことで、幸子は彼の話のキーパーソンを悟る。
触れられたくもあり触れられたくない話題だ。
幸子は少し躊躇ったのち、こくりと頷いた。
話かけられたのが放課後というのも手伝い、幸子と三和はごく自然に一緒に帰路に着いた。
「そーいや、こーして木梨と２人で帰るのなんてホントに久しぶりだな」
鞄を持った手を後頭部に回しながら三和が言った。
小学校時代からの昔馴染みとはいえ、２人きりで帰るのは本当に稀だ。ここにもう一人――
「いつもなら櫂が一緒にいるもんな」
「……っ…」
"櫂"の名前に反応して幸子の肩がびくりと震える。
隣を歩く三和は勿論それに気づいたが、見て見ぬふりをして続けた。
「あいつ、まーた何処行っちまったんだかな」
立凪タクトの元から連れ出し幸子を抱いた翌日、櫂は再びふらりと姿を消していた。
それからもう一週間近く経つが、櫂からの連絡も帰る気配もない。
「本当に……何処に行っちゃったのかな」
同意するようにポツリと呟き空を見上げた。
染みるような青にまた泣きたくなる。
「……らしくねーな」
「えっ…!?」
「お前にそんな顔させるなんて、櫂らしくねーと思ってさ」
肩をすくめた三和は幸子を心配してくれているのだろう。古い付き合いだからか、三和の然り気無い気遣いがよく分かる。
幸子は最近の櫂の様子がおかしいことを三和に相談すべきか迷った。しかし迷っている内に、三和の方から口を開いた。
「なあ、木梨。知ってるか？」
「ん…？」
「最近ネットで出回ってる噂」