２月14日バレンタインデー。
部活終わりの部員達にチョコを配った。
ラッピングこそしたものの中身は市販のチョコをバラして詰めた、本当に気持ちだけの義理チョコだ。
あまり大それたものを上げてもと思い細やかなものに落ち着いたのだが、みんなそれなりに喜んでくれて、幸子も嬉しい気持ちになった。
「見ろよ、龍！ 木梨からのバレンタインチョコだ！」
「おお、見てるぜノヤッさん！ 潔子さんが焼いて下さったクッキーに比べるとややせこい感が否めないが、確かにバレンタインチョコだ！」
「……西谷くんと田中くんは速やかにチョコを返しなさい」
確かに清水の手作りクッキーと比べれば見劣りしてしまうが、気持ちに偽りはないからいいのだ。
その証拠に日向など渡した瞬間に平らげてくれた。
「木梨、ありがとうな。嬉しいよ」
「幸子ちゃん、大切に食べるよ」
チョコを受け取りながら菅原と東峰が温かい笑顔で礼を述べた。
「日頃の感謝の気持ちです。いつもありがとうございます」
「幸子も感謝の気持ちを伝えられるようになったか。成長したな」
「大地くん、なんだかお父さんみたいだよ」
幸子を小さい頃から知る幼なじみの澤村からすれば、感謝のチョコを配れるようになった幸子は大人になったという所だろうか。
それから幸子は３年から離れて月島と山口の元へ近寄っていく。
「はい、月島くんと山口くんにも。いつも厳しい練習ご苦労さま」
「ありがとうございます、木梨先輩」
「でもさー…木梨さんの感謝って安い感謝だよね」
「月島く～ん、何か言った？」
月島の毒舌にビシッとツッコミを入れる。
まあ言葉と本心が必ずしも一致しない彼なので、これで許しておこう。
最後に幸子は遅れてやってきた影山の元へと寄った。
「影山くん」
「木梨…先輩？」
実は解散後、影山には別に手作りチョコを渡すつもりでいる。
だが、付き合っている事実を部内で秘密にしている以上、形式だけでも影山にも渡さないと不自然だ。
幸子はみんなに渡したのと同じものを影山に差し出した。
「これ」
「？……」
「バレンタインチョコ。影山くんに」
「?!!」
影山は暫し面喰らった様子でチョコを見つめていた。
「影山くん…？」
「……っ」
「影山！ それ要らないんなら俺にくれよ！」
「うるせぇ！誰がテメェにやるか日向ボゲェ！」
両手を前に突きだしながらひょこっと出てきた日向を威嚇してから、影山は改めて幸子に向き直りチョコを受け取った。
「…あざっす」
「どう致しまして」
なんだか影山の態度が妙な気もするが…怒っている類いの妙ではないので、良しとしておこう。