レベルアップした所で孤爪はゲーム画面から車窓に目を移した。
陽はかなり暮れている。車内に電灯が点るせいで窓ガラスに隣席の幼馴染みの様子が映し出されていた。
(クロ、いつの間にか寝てる…)
ちょっと前までなにやらじゃれあっていたのに。
静かになったと思ったら、黒尾は幸子に寄り掛かるようにして居眠りしていた。そして幸子は、手を繋いだままで黒尾の寝顔を愛しそうに見つめている。
(幸子、本当にクロの事大好きなんだよね)
孤爪と黒尾、それに幸子は物心ついた時には既に３人一緒にいた。
それが当たり前として育つ中で、いつしか黒尾と幸子はお互いを異性として意識するようになっていったのだ。
黒尾と幸子が両想いだと最初に気づいたのは孤爪だった。幼馴染みという肩書きが邪魔をしてか、２人は長い事両片想いをしていたように記憶している。
それからまあ、紆余曲折あったが２人はめでたく恋人同士になり今に至る。
幼馴染みとして長い時間を共に過ごし、恋人としてまた時間を共有する。
生まれてからほとんどの時間を一緒にいて、それでも足りないとばかりに求めあう２人は、余程強力な磁石で惹かれあっているのだと、孤爪は内心感心していた。
(でも…幸子の幸せそうな顔を見てるのは、結構好き……かも)
もう一度幸子の表情を観察してから孤爪はまたゲームに没頭していった。


―――――‥‥
数十分後。
更に２つレベルアップした孤爪が再び車窓から幼馴染みの様子を伺ってみると、少し動きがあった。
(今度は幸子が寝てる…)
立場が逆転していた。
いつの間に眠気に誘われたのか、黒尾の腕に持たれかかるようにして幸子が居眠りしている。目が覚めたらしい黒尾はニヤリとした笑みを浮かべて彼女の寝顔を見ていた。
見守る表情は愛しげで、その目はとても優しい。
「こいつ、まねけな顔で寝てるだろ？」
「?!……」
突然窓ガラスに映る黒尾に話しかけられ、孤爪はハッとして車窓から車内を振り返った。
途端に黒尾と目が合う。
孤爪が２人の様子を伺っていたのに気づいたらしい。
「思ってないクセに」
「ん？ まあな」
ニヤリと笑いながら応えた黒尾は直ぐに前言を撤回した。
「でもさ」
「ん？」
「幸子、幸せそうな寝顔してるよね」
「そーだな」
自分の事でもないのに黒尾は嬉しそうに笑った。
「あっ、でも…勿体ねえからあんま見んなよ」
「…見てないし」
「見てるし」
「見てない」

「……見てる」
「見てない…!!」
およそ仲の良い幼馴染み三人組なのだ。