帰りの新幹線の時間ギリギリまでおこなわれた三試合全てに音駒は勝利したものの、烏野の秘める圧倒的ポテンシャルを見せつけられた練習試合だった。
「ドリンクボトル洗って来るね」
「一人で大丈夫か？」
「うん、大丈夫。ささっと行って来ちゃうから」
「じゃ、頼んだ」
モップ掛けの指示を出している黒尾に断りを入れ、空のドリンクボトルを抱えて室外の水飲み場に行くと先客が。
(あの人、烏野のマネージャーさんだったよね)
知的な雰囲気を持つ美人だ。
試合が始まる前に山本が大騒ぎしていたのが記憶に新しい。
「あの、隣いいですか？」
少しだけ声が上擦った。
なんでか緊張している自分に気づき、幸子は心の中で苦笑する。
だが話しかけられた烏野マネは、顔を上げるとニコッと控えめに笑い「どうぞ」と端に寄って場所を開けてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「そんなかしこまらなくて大丈夫だよ」
緊張を見透かされた幸子の頬が羞恥に赤くなると、彼女はそれに気づいてクスッと笑った。
「３年の清水潔子」
「木梨幸子です。私も３年」
「これでお互いの名前も知って顔見知りになったし、もう緊張する必要ないね」
「ははっ、そうだね」
清水という女性は田中や西谷達男子にはクールに接するが、実は同性に対しては社交的でオチャメな一面を持っていたりする。
「音駒強いね。攻撃にも熟練感があって安定してる」
「ありがとう。私もそう思う」
他校のマネージャーに皆を褒めて貰えるのはすごく嬉しくて誇らしい。
「烏野はノビシロの優れたチームだね。まだまだ未知数で、これからどんどん強くなっていくんだろうな」
「…次は負けないから」
「次も、負けないよ」
悪戯っぽい笑みを浮かべた清水に呼応するように、幸子もそんな笑みを返した。