#10 桜霜学園
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放課後。ふと音楽室の前を通りがかった幸子は、開いた扉の奥に見える古びたグランドピアノに目を奪われた。
(懐かしいな…)
子供の頃の思い出が甦り、幸子は自然と顔を綻ばせた。そして気づいた時にはピアノの前に座り、鍵盤に両手を置いていた。
――♪♪♪
鍵盤を滑るように動く指。
体とは不思議なもので、長年弾いていなくとも 指先が感覚をきちんと覚えていた。
子供の頃、大好きだった曲――‥
弾き終えると、誰もいなかったはずの音楽室にパチパチと拍手が響き、幸子はギョッとして椅子から立ち上がった。
「し…柴田先生……?」
柔らかな笑みを浮かべた柴田がこちらに歩いて来る。
「ショパンのノクターン…夜想曲。木梨先生は随分と古い曲を弾かれるんですね」
「夜想曲を知ってらっしゃるんですか!?」
と興奮したように告げた所で、考えてみれば彼の専門は音楽なんだと気づいた。しかし柴田は気にすることもなく小さく頷いた。
「夜想曲は 性格的小品…主にピアノ独奏曲の一種。ショパンのアレンジが一番有名だが、実はアイルランド出身のピアニスト兼作曲家であるジョン・フィールドが創始した」
「ふうん。そうだったんですか」
幸子は柴田の説明に引き込まれた。
初めて耳にする、大好きな曲のルーツ。子供のようにわくわくする。
同時に柴田はどこまでも博識な人なのだと感心した。
「柴田先生は、古い時代の芸術に感銘を受けていらっしゃるんですね」
柴田は否定も肯定もしなかった。
窓際に近寄り、夕焼け空を眺めながら口を開く。
「僕は僕に嘘をつかない。そんな人間は総じて、この世界(システム)では奇妙に見えるんでしょうね」
「えっ…?」
その視線は外に向けたまま、更に柴田は続ける。
「この世界はくだらないバランスで成り立っている。押しつけられたルールに沿った、自分の立場。それが自分自身に嘘をつかせる。――そうして生きている人間が、この世界を創り上げているからね」
だからこそ僕は、この世界を壊してしまいたいんだ。
「……」
音楽室に沈黙が流れた。
柴田の言葉全てを理解できた訳ではない。
しかし――幸子の唇は自然と動いていた。
「私も、嫌いですよ…世、は」
そう。私はシビュラの創り上げた世界というバランスの中で、バランスを取り生きている。
生まれた頃から当たり前に存在する秩序を受け入れている自分と、それを投げ出して生きていきたい自分。二極の狭間で。
(懐かしいな…)
子供の頃の思い出が甦り、幸子は自然と顔を綻ばせた。そして気づいた時にはピアノの前に座り、鍵盤に両手を置いていた。
――♪♪♪
鍵盤を滑るように動く指。
体とは不思議なもので、長年弾いていなくとも 指先が感覚をきちんと覚えていた。
子供の頃、大好きだった曲――‥
弾き終えると、誰もいなかったはずの音楽室にパチパチと拍手が響き、幸子はギョッとして椅子から立ち上がった。
「し…柴田先生……?」
柔らかな笑みを浮かべた柴田がこちらに歩いて来る。
「ショパンのノクターン…夜想曲。木梨先生は随分と古い曲を弾かれるんですね」
「夜想曲を知ってらっしゃるんですか!?」
と興奮したように告げた所で、考えてみれば彼の専門は音楽なんだと気づいた。しかし柴田は気にすることもなく小さく頷いた。
「夜想曲は 性格的小品…主にピアノ独奏曲の一種。ショパンのアレンジが一番有名だが、実はアイルランド出身のピアニスト兼作曲家であるジョン・フィールドが創始した」
「ふうん。そうだったんですか」
幸子は柴田の説明に引き込まれた。
初めて耳にする、大好きな曲のルーツ。子供のようにわくわくする。
同時に柴田はどこまでも博識な人なのだと感心した。
「柴田先生は、古い時代の芸術に感銘を受けていらっしゃるんですね」
柴田は否定も肯定もしなかった。
窓際に近寄り、夕焼け空を眺めながら口を開く。
「僕は僕に嘘をつかない。そんな人間は総じて、この世界(システム)では奇妙に見えるんでしょうね」
「えっ…?」
その視線は外に向けたまま、更に柴田は続ける。
「この世界はくだらないバランスで成り立っている。押しつけられたルールに沿った、自分の立場。それが自分自身に嘘をつかせる。――そうして生きている人間が、この世界を創り上げているからね」
だからこそ僕は、この世界を壊してしまいたいんだ。
「……」
音楽室に沈黙が流れた。
柴田の言葉全てを理解できた訳ではない。
しかし――幸子の唇は自然と動いていた。
「私も、嫌いですよ…世、は」
そう。私はシビュラの創り上げた世界というバランスの中で、バランスを取り生きている。
生まれた頃から当たり前に存在する秩序を受け入れている自分と、それを投げ出して生きていきたい自分。二極の狭間で。