#09 潜入捜査
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桜霜学園の職員室。デスクについてペラペラと本を捲る銀髪の男に、同僚の教師が近づいていった。香水の香りが彼の鼻孔を擽る。キツい匂いだ。
「柴田先生」
「ああ、美神先生。何かご用ですか?」
柔らかい笑顔で振り返る柴田の美しさに、美神は息を飲んだ。しばし見惚れる。
「柴田先生もこの後もう授業ありませんでしょ? 一緒にお食事でもと思いまして」
情念を秋波に転じて送る美神は、明らかに柴田に気があるのが一目瞭然だ。
「すみません。片付けないといけない仕事がありまして…」
「そうおっしゃらずに」
「いえ。残念ですが」
「そうですか。…分かりました。また今度」
「ええ、またの機会に」
美神は傷ついたような顔をして職員室を出ていった。
醜い女だ。
己を楽しませてくれる欠片もない。
柴田は読んでいた本を閉じ、ふと顔を上げた。
視線の先には――ひとりの教師。幸子だ。
幸子は柴田と目があった事に驚いたが、彼がにこりと微笑んだのを見てバツが悪そうに側に寄った。
「好意をよせられてるみたいですね」
「全く…罪深きヴィーナスですよ」
柴田が皮肉混じりに応える。
「アドーニスに魅せられているんですよ、きっと」
「!」
柴田がほんの僅かに驚いたような顔をして幸子を見た。その表情で、幸子は自分が何か間違いを言ってしまったと勘違いする。
「あっ…違いましたか?私、てっきり柴田先生がシェイクスピアになぞらえているんだと思って……。それとも、美の女神と美神先生の名前を掛けただけでした…?」
ほんの一瞬。柴田の口元が作りもののそれとは違う自然な形で引き上げられた。
「失礼。どちらも正解なので驚いてしまいました」
「はは、良かったぁ」
恐縮しつつもホッとしてしまう。
間違いを許さない。柴田はそんな男である気がする。
「木梨先生は古典文学を読まれるんですか?」
「学生の頃にちょっとだけかじったくらいで…」
「そうでしたか。それなら――」
口を開きかけた柴田の言葉を遮るように、スーツのポケットに忍ばせた携帯端末が鳴り響いた。
「あ、すみません。失礼します」
「いいですよ。続きはまた近い内に」
パタパタと慌てて職員室を出ていく幸子を柴田は薄い笑みを湛えたまま見送っていた。
まさかこの学園に、自分を楽しませてくれそうなものがもうひとつ見つかるとは――
「楽しい学園生活になりそうだ」
「柴田先生」
「ああ、美神先生。何かご用ですか?」
柔らかい笑顔で振り返る柴田の美しさに、美神は息を飲んだ。しばし見惚れる。
「柴田先生もこの後もう授業ありませんでしょ? 一緒にお食事でもと思いまして」
情念を秋波に転じて送る美神は、明らかに柴田に気があるのが一目瞭然だ。
「すみません。片付けないといけない仕事がありまして…」
「そうおっしゃらずに」
「いえ。残念ですが」
「そうですか。…分かりました。また今度」
「ええ、またの機会に」
美神は傷ついたような顔をして職員室を出ていった。
醜い女だ。
己を楽しませてくれる欠片もない。
柴田は読んでいた本を閉じ、ふと顔を上げた。
視線の先には――ひとりの教師。幸子だ。
幸子は柴田と目があった事に驚いたが、彼がにこりと微笑んだのを見てバツが悪そうに側に寄った。
「好意をよせられてるみたいですね」
「全く…罪深きヴィーナスですよ」
柴田が皮肉混じりに応える。
「アドーニスに魅せられているんですよ、きっと」
「!」
柴田がほんの僅かに驚いたような顔をして幸子を見た。その表情で、幸子は自分が何か間違いを言ってしまったと勘違いする。
「あっ…違いましたか?私、てっきり柴田先生がシェイクスピアになぞらえているんだと思って……。それとも、美の女神と美神先生の名前を掛けただけでした…?」
ほんの一瞬。柴田の口元が作りもののそれとは違う自然な形で引き上げられた。
「失礼。どちらも正解なので驚いてしまいました」
「はは、良かったぁ」
恐縮しつつもホッとしてしまう。
間違いを許さない。柴田はそんな男である気がする。
「木梨先生は古典文学を読まれるんですか?」
「学生の頃にちょっとだけかじったくらいで…」
「そうでしたか。それなら――」
口を開きかけた柴田の言葉を遮るように、スーツのポケットに忍ばせた携帯端末が鳴り響いた。
「あ、すみません。失礼します」
「いいですよ。続きはまた近い内に」
パタパタと慌てて職員室を出ていく幸子を柴田は薄い笑みを湛えたまま見送っていた。
まさかこの学園に、自分を楽しませてくれそうなものがもうひとつ見つかるとは――
「楽しい学園生活になりそうだ」