執行官宿舎の共用トレーニングルームでは、狡噛がホログラムで武装されたロボットとスパーリングをしていた。
「やりすぎですよ、狡噛さん」
宜野座からの指示で狡噛の監視をする事になった常守は、スパーリング・ロボットの悲惨な状況を唖然としながら見守っていたが、一方的に殴打されるロボットに同情して制止をかけた。
「後で絶対に管財課から怒られますよ」
「ダサすぎんだよ、このシステムが」
完全に壊れてしまったロボットを調べながら常守が呆れたように言うと、狡噛は憤慨したように返してタバコを燻らせた。
「………」
タバコを吸う狡噛のキレイに割れた腹筋が 否応なしに昨夜の事を常守に思い出させる。
思えば狡噛の幸子に対しての行き過ぎた行動も、恋人同士なら合点がいく。
(なのに私、セクハラだなんて大騒ぎしちゃって…)
幸子を守りたかっただけなのに、その非難の対象がまさか彼女の恋人であったとは。
「……俺の顔になんかついてるのか？」
「いや、べ、別に……」
ハッと我に返り目を逸らした常守に狡噛は怪訝そうな顔を向けた。
「なんでそんな睨み付けるように俺を見るんだ？」
「そ、それは……っ！狡噛さんのせいです」
「はあ？」
意味が分からないとばかりにタバコをくわえたまま狡噛が声をあげた。
「あの」
「……なんだ？」
「狡噛さんと幸子さんは…恋人同士なんですよね？」
「なんだ。知ってたのか」
真実を突きつけても、狡噛は幸子と違いほとんど動揺を見せなかった。
くわえていたタバコを手に持ち、ふー…と天井に向けて煙を吐く。
「別に隠すつもりはなかった」
「…幸子さんも同じこと言ってました」
「それで…？ あんたがなついている女の恋人だった俺を目の敵にしてんのか？」
「め、目の敵になんかしてません！ 狡噛さんが ちゃんと幸子さんを幸せにしてくれさえすれば…！」
両の拳を握りしめ、真剣な表情で食って掛かってきた常守の様子が可笑しくて、狡噛はタバコを吸いながらニヤリとした。
「あんたまるであいつの母親だな」
「違います！２人の仲をあんな形で知ったから……あっ！」
しまった…！というように手で口を押さえるが後の祭だ。