桜霜(おうそう)学園は 創立200年を誇る全寮制の女子高等課程教育機関だ。
古めかしく見えつつも、最新の設備が敷かれた五階建て校舎のとある教室。王陵璃華子のクラスでは、国語の授業がおこなわれていた。
「元宮さん。65頁を読んでもらえるかな」
「はい」
ガタッと音を立てて椅子から立ち上がったツインテールの女生徒が教科書を手に朗読を始めた。
退屈な授業だ。
今時珍しい紙の教科書を立て、璃華子は携帯情報端末をいじる。いじりながら…教壇に立つ女性教師の様子を伺った。
「この時の彼女の心情としては…」
元宮の読み終えた文章の説明を熱心にする女性教師。
――あの鈍そうな新米教師の目なら、これくらいの防壁で簡単に騙せるだろう。
僅かに指を動かして文章を打ち送信すれば、直ぐに返信が届いた。璃華子は満足そうにその内容を読む。
蝶は簡単に張り巡らされた蜘蛛の巣にかかった。後は飛べないようにその美しい羽根を切り離すだけ。
ジリリリ――
その時 終業のチャイムが教室内に鳴り響いた。
「今日はここまで」
教科書を閉じながら女性教師が言った。
途端にざわつく教室内。
退屈な時間だったが、それなりの収穫があった事に満足しながらそっと机に端末をしまい、続けて教科書を片付けようとした璃華子に女性教師が声をかけた。
「王陵さん」
「はい。なんでしょう？」
どうせ学級委員長である自分にプリントを届けてほしいとか、そんな雑用を申し付けるのだろう。そう思いつつも愛想よく答えれば、女性教師は悪戯っぽい笑みを返してきた。
「端末を弄りたい気持ちも分かるけど、次はちゃんと授業に集中してね」
「！……」
気づかれていた事に内心動揺しつつも、璃華子は軽く頭を下げて丁寧に詫びた。
「すみません。次からは気をつけます。木梨先生」
幸子はにっこりと頷き、教科書を手に教室を出ていった。