その討論は研修の休憩時間に突如として行われた。
「あら、雨に唄うの上映が始まったみたいね」
事の発端は携帯端末をいじっていた青柳の何気ない一言だった。
「あっ、もう始まってたんだ！」
幸子は直ぐに食いついた。
映画「雨に唄う」は今時珍しい純愛を題材にした恋愛映画だ。
その古風な雰囲気が話題となり、わざわざ映画館に足を運ぶ人も少なくない。
幸子も原作を読んですっかり魅せられてしまった一人であった。
「幸子、興味あるの？」
「うんっ、すごく!!」
ニコニコの幸子を見ながら青柳は端末を閉じた。
「ふうん。確かにあなたは好きそうかもね。私は原作を読んだけど馴染めなかったわ」
「あー…そうなんだ。私はすごく良いと思ったよ」
まあ、十人十色という。
感性が違っても仕方ない。
「雨に唄うの原作なら俺も読んだよ」
「……俺もだ」
傍にいた狡噛と宜野座も すすっと話に入ってきた。
青柳は目を丸くする。
「へえ。狡噛君も宜野座君も案外読書家なのね」
「話題になっている映画の原作だからな。雑学として押さえておいたんだ。な、ギノ」
「ま、まぁ…そうだな」
狡噛が同意を求めると、なぜか宜野座は赤面しながら頷いた。
「それで…？ あなた達２人の感想は？」
青柳の問いかけに、狡噛は一度幸子に目線を配り、素直に答えた。
「木梨には悪いが、在り来たりな恋愛話であるのは否めないな」
「そんな事ないだろう?!」
宜野座が直ぐ様狡噛に異を唱えた。
その声がやけに大きくて、一同は一斉に宜野座を注目した。ハッとした宜野座は咳払いをして小さく続ける。
「…俺は結構楽しめたぞ」
「うわぁ、やっぱり伸元は分かってるなぁ」
ここにきて味方が現れたのが嬉しすぎる。
「璃彩ちゃんも狡噛くんも観ればきっと好きになっちゃうよ」
「それなら幸子の言葉が本当かどうか、次のオフに４人で確かめに行かない？」
「うんっ、行く行く！」
「賛成だ」
「俺も構わないよ」
幸子、宜野座、狡噛と、次々に青柳の提案に同意の声をあげた。
「決まりね。映画の後に討論会の続きといきましょう」
こうして若き監視官の卵達の週末の予定が決まった。