#36 色のない部屋
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屋上の一角に震える小さな背中を見つけ、幸子は静かに近づいていった。
「朱ちゃん…」
「うっ……幸子さん……」
振り返った常守の頬は涙で濡れていた。
握りすぎてくしゃくしゃの便箋を手にしたまま、常守は幸子の胸にすがりついて泣いた。
まだ右も左も分からない新米だった自分を成長させてくれたのは幸子と狡噛に他ならない。
「約束したのに……それに…幸子さん、を…残していくなんて……!!」
普段は自分より高い位置にある後頭部を優しく撫で、幸子はぎゅっと常守を抱きしめた。
……狡噛は、行ってしまった。
常守に手紙と、そして幸子にボイスレコーダーを残して。
―――――‥‥
監視官権限で扉を開け、幸子は室内へと入室した。
やって来た狡噛の部屋は声をかければ書斎から彼が現れそうだ。微かに漂う煙草の匂いもまたいつもと同じく。
幸子はソファに腰掛けスーツのポケットを探り、ボイスレコーダーをテーブルに置いた。勤務あけの幸子に征陸から届けられたもの。
(狡噛くん…)
一体狡噛はこの中にどんな言葉を…想いを残したのだろう…。
微かに震える手でボイスレコーダーを手に取り、耳元へ近づけて再生ボタンを押した。
『幸子――あの夜はすまなかった』
再生から少し間を置き、狡噛の低く静かな声が流れだした。幸子は目を閉じ流れてくる声に集中する。
『俺は嫉妬したんだ。幸子と奴の関係に。俺との事を忘れ槙島を親しげに呼ぶお前に、そう仕向けた槙島に――どうしようもないくらい嫉妬した…。
俺を忘れるなんて許せなかった。消えないよう、お前に俺を刻み込みたかった。――結果、俺はお前を傷つけた。
俺の愛は幸子を傷つけてしまう。だから俺は……お前の傍にいない方がいい。
幸子、お前は監視官に復帰して新たな道を歩み始めた。もう二度と道から外れてはいけない。
お前を傷つけた俺が言うのもおこがましいが、お前には幸せになって欲しい。いつでも元気に笑っていて欲しい。
愛している、幸子。
俺の事は――忘れてくれ』
幸子の手から何かがスルリと滑り落ちた。
それはテーブルにあたって金属音を立て、跳ね上がりそのまま床に転がった。
しかし幸子はそれが…指輪が外れた事にも気づかない。再生を終えたボイスレコーダーを手にしたまま、固く目を閉じ動けないでいた。
ぽたぽたと……閉じた瞳から涙が止めどなく溢れる。
「……っ、慎也……」
主を失った部屋の中では、返ってくる声も応えてくれる温もりもなかった。
「朱ちゃん…」
「うっ……幸子さん……」
振り返った常守の頬は涙で濡れていた。
握りすぎてくしゃくしゃの便箋を手にしたまま、常守は幸子の胸にすがりついて泣いた。
まだ右も左も分からない新米だった自分を成長させてくれたのは幸子と狡噛に他ならない。
「約束したのに……それに…幸子さん、を…残していくなんて……!!」
普段は自分より高い位置にある後頭部を優しく撫で、幸子はぎゅっと常守を抱きしめた。
……狡噛は、行ってしまった。
常守に手紙と、そして幸子にボイスレコーダーを残して。
―――――‥‥
監視官権限で扉を開け、幸子は室内へと入室した。
やって来た狡噛の部屋は声をかければ書斎から彼が現れそうだ。微かに漂う煙草の匂いもまたいつもと同じく。
幸子はソファに腰掛けスーツのポケットを探り、ボイスレコーダーをテーブルに置いた。勤務あけの幸子に征陸から届けられたもの。
(狡噛くん…)
一体狡噛はこの中にどんな言葉を…想いを残したのだろう…。
微かに震える手でボイスレコーダーを手に取り、耳元へ近づけて再生ボタンを押した。
『幸子――あの夜はすまなかった』
再生から少し間を置き、狡噛の低く静かな声が流れだした。幸子は目を閉じ流れてくる声に集中する。
『俺は嫉妬したんだ。幸子と奴の関係に。俺との事を忘れ槙島を親しげに呼ぶお前に、そう仕向けた槙島に――どうしようもないくらい嫉妬した…。
俺を忘れるなんて許せなかった。消えないよう、お前に俺を刻み込みたかった。――結果、俺はお前を傷つけた。
俺の愛は幸子を傷つけてしまう。だから俺は……お前の傍にいない方がいい。
幸子、お前は監視官に復帰して新たな道を歩み始めた。もう二度と道から外れてはいけない。
お前を傷つけた俺が言うのもおこがましいが、お前には幸せになって欲しい。いつでも元気に笑っていて欲しい。
愛している、幸子。
俺の事は――忘れてくれ』
幸子の手から何かがスルリと滑り落ちた。
それはテーブルにあたって金属音を立て、跳ね上がりそのまま床に転がった。
しかし幸子はそれが…指輪が外れた事にも気づかない。再生を終えたボイスレコーダーを手にしたまま、固く目を閉じ動けないでいた。
ぽたぽたと……閉じた瞳から涙が止めどなく溢れる。
「……っ、慎也……」
主を失った部屋の中では、返ってくる声も応えてくれる温もりもなかった。