#36 色のない部屋
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少し錆び付いたキーホルダーの先端には鍵がついている。
「警視庁時代の思い出だ。身の振り方に悩んでいた頃、いざという時に備えてセーフハウスを用意してたことがある。まだ取り壊されてなきゃ、何かの役に立つかもしれん」
「とっつぁん……」
手にした鍵はずっしりと重かった。
礼を述べようとするも上手く言葉に出来ない。
代わりに狡噛は目を閉じ僅かに頭を垂れた。
「お嬢ちゃんには黙ったまま行くのか? せめて気持ちの整理だけはつけさせてやれよ」
「……そうだな。だがあいつは心配ない。入った頃よりずっとタフになった」
「それはそうかもしれねぇな」
確かにこの数ヶ月で常守はずっとタフに…刑事らしくなった。
「……それに幸子がいる。監視官として、先輩として――幸子が常守をサポートしてくれるはずだ」
「コウ……?!!」
征陸は僅かに驚いたような顔を見せてグラスをテーブルに置いた。
「幸子を連れて行かねぇのか?」
「……愚問だろ、とっつぁん」
征陸ではなくグラスの中の氷を見つめたままで狡噛は頷く。
ソファの背凭れに大きく身を沈め、征陸は深い溜め息をついた。
「愛しているが故に去る、か?」
「俺は幸子に取り返しのつかない事をしてしまった」
「これからしようとしているんだろ?」
罪悪感から征陸の言葉が皮肉めいて聞こえ、狡噛は自嘲気味に笑った。
「幸子は今、俺との関係を覚えていない」
「なんだって!?」
「指輪だ。槙島が与えた指輪が幸子の脳に何らかの影響を及ぼしている」
「…なんてこった」
「俺がいなくても今のあいつはやっていける。……俺は幸子の傍にいない方がいい」
「………」
征陸が何とも言えない表情のまま押し黙ったのを見計らい席を立った。
「待て、コウ」
呼び止めると、先程と同じような動作でテーブルに何かを置いた。それはペンサイズの小型ボイスレコーダーだった。
「例え覚えていなかったとしてもお前達が恋人同士だった事実は消えやしねぇんだ。別れの言葉くらい伝えてやれ」
狡噛は暫くボイスレコーダーを眺めていたが、やがて手を伸ばしそれを掴んだ。
「警視庁時代の思い出だ。身の振り方に悩んでいた頃、いざという時に備えてセーフハウスを用意してたことがある。まだ取り壊されてなきゃ、何かの役に立つかもしれん」
「とっつぁん……」
手にした鍵はずっしりと重かった。
礼を述べようとするも上手く言葉に出来ない。
代わりに狡噛は目を閉じ僅かに頭を垂れた。
「お嬢ちゃんには黙ったまま行くのか? せめて気持ちの整理だけはつけさせてやれよ」
「……そうだな。だがあいつは心配ない。入った頃よりずっとタフになった」
「それはそうかもしれねぇな」
確かにこの数ヶ月で常守はずっとタフに…刑事らしくなった。
「……それに幸子がいる。監視官として、先輩として――幸子が常守をサポートしてくれるはずだ」
「コウ……?!!」
征陸は僅かに驚いたような顔を見せてグラスをテーブルに置いた。
「幸子を連れて行かねぇのか?」
「……愚問だろ、とっつぁん」
征陸ではなくグラスの中の氷を見つめたままで狡噛は頷く。
ソファの背凭れに大きく身を沈め、征陸は深い溜め息をついた。
「愛しているが故に去る、か?」
「俺は幸子に取り返しのつかない事をしてしまった」
「これからしようとしているんだろ?」
罪悪感から征陸の言葉が皮肉めいて聞こえ、狡噛は自嘲気味に笑った。
「幸子は今、俺との関係を覚えていない」
「なんだって!?」
「指輪だ。槙島が与えた指輪が幸子の脳に何らかの影響を及ぼしている」
「…なんてこった」
「俺がいなくても今のあいつはやっていける。……俺は幸子の傍にいない方がいい」
「………」
征陸が何とも言えない表情のまま押し黙ったのを見計らい席を立った。
「待て、コウ」
呼び止めると、先程と同じような動作でテーブルに何かを置いた。それはペンサイズの小型ボイスレコーダーだった。
「例え覚えていなかったとしてもお前達が恋人同士だった事実は消えやしねぇんだ。別れの言葉くらい伝えてやれ」
狡噛は暫くボイスレコーダーを眺めていたが、やがて手を伸ばしそれを掴んだ。