覆面パトカー及び護送車から降りた刑事課メンバーを出迎えたのは、工場主任の郷田だった。
「ようこそ刑事さん」
郷田の先導で現場へ赴く刑事課メンバー。
まず驚いたのは、建物自体が電波暗室――つまり回線そのものが設置されていないオフラインであるという事実。
これがハッキング対策として最も効率の良い保安体制だという。
「ぞっとするねぇ…。陸の孤島かよ」
縢が皮肉を呟いた。
現場検証、郷田との会話、そして施設内部から導き出された結論は事故死ではなく。
「殺人だな」
主任室を退室し、常守達と合流する為 社員食堂へと歩きながら狡噛が言った。
「でも あの郷田という主任、あくまで事故死で処理しようとしてるわ」
狡噛と幸子の数歩後を歩く六合塚が表情を変えずに言った。
「経済省管轄の官営だからな。きっと内部事情が色々あるんだろ」
「人の命が失われたのに……それより大事なことなんてないのに、ね」
「…そうだな」
俯く幸子をちらりと見、狡噛は慰めるように手のひらをポンと彼女の頭に乗せて同意した。
「動機は何かな？」
「あれは間違いない。怨恨だな」
「きゃっ！」
狡噛の言葉と幸子の小さな悲鳴が重なった。曲がり角から現れた小男と肩がぶつかったのだ。
軽く弾かれ よろけた幸子の背中を狡噛の腕が支える。
「大丈夫か？」
「う、うん…。ありがとう慎也」
「ちゃんと前を見て歩きなさい！」
「ヒィッ！す、すみませんすみません!!」
つかつかと進んできた六合塚が険しい顔で小男に詰め寄ると、小男は怯えるように何度も謝った。
体制を立て直した幸子は六合塚を制す。
「弥生ちゃん、ありがとう。私は大丈夫だから」
「幸子…」
「ごめんなさい。私こそ不注意で。…怪我はありませんでしたか？」
幸子としては特別な事を言ったつもりはない。
だが小男は幸子の言葉にとても驚いているように見えた。まるで初めて気遣いの言葉をかけてもらったように。
しかしそれも束の間。小男は「大丈夫」とかなんとかモゴモゴ呟き足早に去っていった。