ダッと前に重心をかけて踏み込み、槙島に殴りかかる。槙島はそれを避けて２、３歩距離を取った。
「刑事の言葉とは思えないな」
「黙れ！幸子の行方も事件の真相もお前を殺した後で調べればいい」
聞く耳を持たない狡噛が再度拳を振るう。
ガードした槙島も今度は反撃に転じた。ぶつかりあう拳と拳。
「シビュラ･システムの正体が知りたくないのか」
「そんなものは後回しでいいんだよ！」
「まずは幸子が先決と言うわけか」
再び距離を取った槙島の笑みが不敵なそれに変わる。
「既に彼女の心は僕のものだ」
「お前には渡さない！」
叫びながら狡噛は下から槙島の側面を取った。
そのまま槙島を締め上げようとするも、彼はするりと抜け出し狡噛に強烈な蹴りを浴びせた。
狡噛の頭皮が裂けて血飛沫が飛ぶ。軽い脳震盪を起こし、立ち上がれない狡噛を見下ろし槙島はカミソリを構えた。
「思っていたより拍子抜けの結末だが…それでも久々に退屈を忘れた。感謝してるよ」
狡噛は朦朧とする意識の中で槙島を見上げた。
体が動かない。
佐々山の仇も取れず、幸子を救い出しもできないまま槙島の手にかかるのかと思うと、沈む意識の淵で悔しさが込み上げた。
その時――
「うわああああっ！」
雄叫びと共に突進してきた常守が、槙島目掛けてヘルメットを振り下ろした。
咄嗟のことに反応できず、槙島はその直撃を喰らいドッと床に倒れた。
「はあ…っ、はあ…」
肩で息をしながら気絶した槙島を見下ろす常守の胸に様々な思いが去来する…。
涙を滲ませ、ぐっと歯を食いしばった常守は、屈みこんで槙島に手錠をかけた。
「槙島聖護……あなたを、逮捕します…」