厚生省ノナタワー――‥
手薄になったオフィスへ槙島一行は易々と侵入していた。
「このタワー内で特に電力消費が激しいのは……二ヵ所ですね。最上階付近と地下」
職員用パソコンから内部データを読み取りながらチェが言った。薄暗い室内で、液晶画面からの光を受けた彼の顔は、異常な程の興奮を示していた。
「どっちがシビュラ･システム本体だい？」
「屋上付近は電波塔ですからね。大量の電力消費も当然ですよ」
「――正解は地下、か」
液晶画面を見据えたまま槙島が呟く。
その時、チェの携帯端末が警報を鳴らした。
「もうこっちに公安局の車が向かってます。…やるなぁ」
「きっと狡噛慎也だろう。驚かないよ」
槙島は楽しげに言い、隣に立つ幸子の髪を撫で鋤いた。
「二手に分かれよう。僕は上、君は下。部下を三人ずつ連れて行く」
「いいんですか？この場合、本命は……」
「狡噛は僕を狙ってくるだろう。なら陽動を引き受けるのが合理的だ」
――僕と対峙した時の彼はどんな行動を取るだろう。
愛する女を返せと怒りだすだろうか。
それとも本気で僕を殺そうとするだろうか。
……楽しみだ。