ヘルメット集団と群衆の激突を鎮圧した３人はある推理を展開していた。
槙島は意図的に暴動を起こさせ、それにより公安局が鎮圧に乗り出すことを想定していた。だとしたら――
「これは全て刑事課の人員を誘き寄せる為の陽動…」
パトカーに戻った狡噛が、呼び出したナビゲーションマップで検索をかける。
「狡噛さん、何を……？」
「全ての囮から一番距離の離れている場所を絞り込む。そいつがきっと本命だ」
検索の結果、ある一ヵ所に赤い光が点る。
「厚生省ノナタワー。ここが槙島の真の標的だ」
常守班のパトカーはノナタワーへの道をフルスピードでひた走る。
『馬鹿な！そんな根拠のない憶測で持ち場を離れるな!! 人命がかかってるんだぞ！』
無線から応答してきた宜野座の声音は厳しい。それでも常守は必死に説得にあたった。
「でも、監視官も執行官も出払った官庁街は蛻の殻ですよ！首謀者の…槙島の目的はノナタワー襲撃に間違いありません！」
『?!――君は今回の暴動の首謀者が槙島だと思っているのか!?』
「私、と…狡噛さんの推理です」
無線の向こうで宜野座が息を飲む音が聞こえた。僅かな沈黙。
それから絞りだすような宜野座の苦しげな声。
『ノナタワーに槙島がいるとすれば…』
「――もしかしたら幸子さんの情報も……」
『――?!』
またほんの少しだけ静寂があった。
『……分かった。まずは君達が先行して状況を確認しろ。何かあったらすぐ連絡を』
「はい！」
無線を切った常守は、ふぅ…と息を吐いた。
「あの堅物なギノさんが随分変わったもんだね～」
パトカーを運転しながら皮肉混じりに縢。だがその口調は、嫌味というより関心しているようなそれだ。
「ギノは決して堅物な訳じゃない。物事を真剣に考えすぎるだけ――要するに不器用なだけさ」
「今ならコウちゃんのその言葉…頷けるかもな。――っと、見えて来たぜ！」
フロントガラスには、闇に聳え立つようなノナタワーの全景が現れ始めた。