#15 監視官と執行官の狭間
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互いに得るものを得て帰路に着いた。
覆面パトカーは軽快に高速道路を飛ばす。車内での話題は専ら雑賀の講義内容だった。
「底が見えない、黒い沼がある。沼を調べる為には飛び込むしかない」
来た時と同じように車窓を眺めながら狡噛は続ける。
「先生の講義を受けた全ての生徒が沼に潜って無事に戻って来れる訳じゃない」
「…狡噛さんは深くまで潜りそうですね。それでもちゃんと帰ってくる」
「いいや、どうだかな。少なくともシビュラシステムは、俺が帰って来られなかったと判断した」
手首につけた執行官仕様の携帯情報端末を示しながら狡噛が自嘲する。
膝を抱えた状態でシートに座り、言葉を詰まらせ沈黙する常守。
「……でも、幸子さんは――」
「ん?」
「幸子さんは、狡噛さんが帰って来ると信じています」
根拠はないが そう確信していた。
狡噛は車窓を眺めたまま、「そうかもな…」と呟くように同意した。
「あいつは…幸子は優しすぎるんだ。
献身的で、温かく――だからこそ切り捨てが苦手で………俺から離れる事ができない」
言ってから狡噛は自嘲気味に笑った。
「いや、離れられないのはお互いさまか」
――幸子が離れようとした所で、手離す気は毛頭ないからな。
「幸子さんは、なんで執行官なんでしょうか。狡噛さんの傍にいるなら監視官でも充分なのに…」
狡噛が窓の外から常守に視線を移した。
「幸子が潜在犯じゃないと知ったみたいだな」
「はい、偶然でしたけど。それに特別執行官になった経緯は宜野座さんから少し聞きました」
「…そうか」
と狡噛は小さく息を吐き、また視線を流れる景色へ。
「なぜ幸子が執行官になったのか……幸子の復職時に局長とどんなやりとりがあったかについては 幸子は話したがらない。唯一 場に居合わせたギノも同様だ」
「幸子さんが特別執行官になった理由(わけ)…」
ぎゅっと膝を抱え直しながら常守は神妙な面持ちで呟いた。
「特別執行官――与えられる権限と自由は監視官とほぼ変わらない。それでも幸子さんは執行官になる道を選んだ…」
「ひとつ言えるのは どんなやりとりがあったにせよ、局長は幸子に相応の期待をしているという事だ」
「期待、ですか?」
「それが何を意味しているかまでは計れないがな」
そう言ったあと、狡噛はまるで自分を責めるように一人ごちた。
「あいつを巻き込みたくなかった。これは俺の問題なんだ……」
それきりもう、狡噛は口を開く事はなかった。
覆面パトカーは軽快に高速道路を飛ばす。車内での話題は専ら雑賀の講義内容だった。
「底が見えない、黒い沼がある。沼を調べる為には飛び込むしかない」
来た時と同じように車窓を眺めながら狡噛は続ける。
「先生の講義を受けた全ての生徒が沼に潜って無事に戻って来れる訳じゃない」
「…狡噛さんは深くまで潜りそうですね。それでもちゃんと帰ってくる」
「いいや、どうだかな。少なくともシビュラシステムは、俺が帰って来られなかったと判断した」
手首につけた執行官仕様の携帯情報端末を示しながら狡噛が自嘲する。
膝を抱えた状態でシートに座り、言葉を詰まらせ沈黙する常守。
「……でも、幸子さんは――」
「ん?」
「幸子さんは、狡噛さんが帰って来ると信じています」
根拠はないが そう確信していた。
狡噛は車窓を眺めたまま、「そうかもな…」と呟くように同意した。
「あいつは…幸子は優しすぎるんだ。
献身的で、温かく――だからこそ切り捨てが苦手で………俺から離れる事ができない」
言ってから狡噛は自嘲気味に笑った。
「いや、離れられないのはお互いさまか」
――幸子が離れようとした所で、手離す気は毛頭ないからな。
「幸子さんは、なんで執行官なんでしょうか。狡噛さんの傍にいるなら監視官でも充分なのに…」
狡噛が窓の外から常守に視線を移した。
「幸子が潜在犯じゃないと知ったみたいだな」
「はい、偶然でしたけど。それに特別執行官になった経緯は宜野座さんから少し聞きました」
「…そうか」
と狡噛は小さく息を吐き、また視線を流れる景色へ。
「なぜ幸子が執行官になったのか……幸子の復職時に局長とどんなやりとりがあったかについては 幸子は話したがらない。唯一 場に居合わせたギノも同様だ」
「幸子さんが特別執行官になった理由(わけ)…」
ぎゅっと膝を抱え直しながら常守は神妙な面持ちで呟いた。
「特別執行官――与えられる権限と自由は監視官とほぼ変わらない。それでも幸子さんは執行官になる道を選んだ…」
「ひとつ言えるのは どんなやりとりがあったにせよ、局長は幸子に相応の期待をしているという事だ」
「期待、ですか?」
「それが何を意味しているかまでは計れないがな」
そう言ったあと、狡噛はまるで自分を責めるように一人ごちた。
「あいつを巻き込みたくなかった。これは俺の問題なんだ……」
それきりもう、狡噛は口を開く事はなかった。