「恭…弥……」
取り残された幸子は茫然として応接室の出入口を見つめていた。
何がいけなかった？
何があそこまで雲雀を怒らせてしまったというのか。
「うっ……」
自然と幸子の瞳からは涙が零れる。最後は目も合わせてくれなかった。
「大丈夫だよ」
ディーノは幸子の肩に大きな手を置き、落ち着くようにさすってやる。
「なんで…っ、恭弥っ」
「ハハッ。あいつ、本当に幸子の事が好きなんだな」
「えっ…？」
ディーノから飛び出した予想外な言葉。
「あの態度、嫉妬以外の何ものでもねー。恭弥の奴、さっきの事が余程気にいらなかったんだろうな」
「え…っ…？」
嫉妬？ あの雲雀が…？
「ったく、困った奴だぜ」
ただの戦闘マニアだと思っていたが、こんな一面もあったとは。
「ディーノさん…」
「元はといえばオレのせいだからな…。責任持って場を収める。だから幸子は心配すんな」
とディーノが幸子の頭を撫でた。
帰ると言って出ていったが、雲雀は間違いなくまだ校舎内にいる。いくら負の感情に支配されていようと、これだけ執着している女を置いて離れる訳がない。
「だとしたら、行き先はひとつだな」


―――――‥‥
人気のない屋上。
貯水槽の上に寝転んだ雲雀は空を眺めていた。
気にいらない。何もかも。
幸子に触れたあの男も。触れられて頬染めていた幸子も。
「！」
ふいに空気が動いた。
貯水槽から飛び降りると、雲雀はトンファーを構えて相手を睨み付けた。