アラウディはボンゴレ本部にある自室の窓から外の様子を伺っていた。
「遅い」
低く色気のある声には僅かな苛立ち。その端正な顔の眉間には深い皺が寄せられている。
帰ってみれば幸子が部屋にいない。
街へ出掛けたのだろうか？それにしては帰りが遅い。
そろそろ陽も暮れる。
外出を禁止した覚えはないが、幸子が書き置きもせずに こんなに遅くまで出歩くとは思えない。だとすれば、幸子はアラウディが戻る前に帰るつもりで出掛けたのではないだろうか。
「幸子…」
徐々に募る焦燥。
痺れを切らしたアラウディは自室を後にした。
何もなければ良いのだが。
「おや、なんだか珍しく慌てているようですね」
廊下で対面した男は、相も変わらず取ってつけたような笑みを浮かべて言った。
「今 君に構っている暇はないよ」
「ヌフフ…それは私の台詞です」
アラウディの言葉に皮肉で返すデイモン。
元々仲が良い訳ではなかった２人だが、幸子を愛するデイモンとしてはアラウディは忌々しい存在であり、また 幸子に横恋慕を仕掛けてくるデイモンはアラウディにとって不快な存在だった。
互いに互いを快くは思っていないのだ。こうなるのは自然な事で。
「フロランタンはもう召し上がったのですか？」
「なんのことだい？」
イラつきながら答えれば、デイモンは先程の作り笑いとはまた違った笑みを見せた。
「幸子の土産ですよ。受け取ったのでしょう」
「幸子の土産？」
「おや、この件はまだあなたには秘密でしたか」
デイモンが幸子との秘密の共有に優越感を抱いているのは明白であったが、今はそんな事どうでもいい。
「ねえ、君 幸子に会ったのかい？」
「!?……幸子はまだ戻っていないのですか？」
「君には関係ないよ」
驚き問うたデイモンを振り切るように、アラウディはバッとコートを翻すとその場を離れた。
幸子を案じるのは己だけでいい。