目を覚ますと 薄暗い部屋にいた。
窓は割れ、家具は倒れ、壁は一部が壊れているという荒れ放題の室内は、"廃屋"という言葉がぴったりだ。
どうやら幸子は、廃屋の一室の埃っぽい床に倒れているようだ。
「ここは…？」
「おや、目が覚めたようですね」
「!!」
反射的に上体を起こすと、ソファーに座る男の色違いの目とあった。
「六道…骸…」
「クフフ。僕の名前を覚えていてくれたのですね、木梨幸子さん」
骸が柔らかい笑みを浮かべて言った。
心からとは言えない、どこか嘘のある微笑み。
「なんでこんな事…」
「クフフフ。応接室に来た君には察しがついているハズですが」
幸子をここへ連れて来た骸の目的…
考えられるのはひとつしかない。
(恭弥…)
おそらくは、目の前にいる男が並中生襲撃事件の首謀者。だとすれば、幸子をさらった理由は、恋人の雲雀を誘き出す為に他ならない。
「君が雲雀恭弥の恋人である事は、調べがついています」
「…恭弥を狙う目的は何ですか？」
「彼を狙っている訳ではありません。僕が会いたいのは"ボンゴレ"です」
「"ボンゴレ"…？」
パスタしか浮かばない。
雲雀ではなく"ボンゴレ"に会いたいとはどういう意味なのだろうか。
「並中のボスである彼が"ボンゴレ"なのか……会うのが楽しみです」
クフフ…と骸が笑った。
「恭弥はここに…」
「来ますよ、必ずね。応接室に判りやすいメッセージも残してきましたし…それに」
と幸子をいやらしい目付きで見た。
「君は雲雀恭弥の最愛の人ですから」
「っ……」
思わず動揺し、頬を染めてしまう。
「クフフフ。可愛らしい。判りやすい人ですね。君は雲雀恭弥の愛する人の第一位にランクインされているのですよ」
ランクイン…つまりランキング第一位。どこかで聞いた事のある話だ。
「そんな君を彼が助けに来ない訳がない」
骸がソファーからゆっくりと立ち上がり、こちらに歩いて来る。
「やっ、近づかないで…、っ!!」
手を目の前にかざそうとした幸子は、違和感に気づき自分の手元を見た。
両手が淡い藍色のもので拘束されている。拘束している"もの"に質感はなく、まるで拘束具自体が幻覚のように感じた。
それに戸惑っている間に近づいてきた骸に抱き上げられてしまう。
「離してっ！」
「クフフフ…共に待ちましょう、雲雀恭弥が現れるのを」