「彼女は――リブは柔らかい雰囲気を纏う、よく笑う可愛らしい女性でした」
デイモンは幸子を愛しそうに見つめながら、まるで当時を懐かしむように言葉を紡いでいく。
「ボンゴレやマフィアなど微塵も感じさせないリブとの時間は、渇ききった私の心を潤わせた」
渦中にいたエレナと違い、ボンゴレを感じさせないリブは、デイモンに一時的に指命を忘れさせる存在だったのかもしれない。
「三度です」
「えっ!?」
聞き返した沢田を一瞥し、今度はデイモンはどこか狂気めいた表情を浮かべた。
「私達は同じ日に違う場所で、三度も出逢った。これは運命だ…!! リブを私の許に遣わせてくれたのはエレナ…そう確信しました。そう。気づいた時にはもう、私は彼女の虜になっていたのです」
どこか狂気めいたデイモンの愛も、始まりは純愛だったのだ。
「…彼女がアラウディの恋人と知ったのは、その夜の事でした」
そこで言葉を止め、憎々しげな視線を雲雀に送る。まるでアラウディに向けられたように鋭い、それ。
「私にはエレナの崇高な指命がある。Ⅰ世の最強守護者である彼を手にかける訳にはいかない。私はリブを諦めるしかなかった…」
デイモンは悔しそうにギリッと奥歯を噛み締めた。
なぜデイモンが幸子に執着するのか、その理由が明白になった。
エレナを失ったデイモンが再び恋した女性は、同じ守護者の恋人だった。
その指命から、現世で手に入れられなかった彼女を、どうしても己のものにしたかったのだろう。
年月を重ねる毎に募る一方的なリブへの想いが、デイモンを狂わせてしまったのだ。
「そのかいもあり、私の創りあげたボンゴレの強さと富に楯突く愚者はいなくなり、無駄な血は流されなくなったのです。エレナの望み通り、ボンゴレは弱き者達に平和をもたらしたのだ！」
強いボンゴレを誇示するように吼えるデイモンを「でも…」と沢田が遮った。
「エレナさんは本当に…そんなボンゴレが好きなの…かな？」
「なっ…何!?」
「人を怖がらせたり力やお金を使って支配する事に、弱い人の気持ちなんて少しも入ってないじゃないか」
「沢田綱吉！貴様にエレナの気持ちが分かるというのか!!」
デイモンがいきり立つように叫んだ。
それはデイモンの心の叫びにも聞こえて。
「わかるよ」
沢田が静かに答えた。