三度逢えた。
それは運命以外のなにものでもない。
幸子に運命を感じた瞬間……。そう、それはデイモンが幸子を愛した瞬間でもあった。しかしアラウディの存在によってそれは一瞬の内に砕かれてしまった。
そしてデイモンは、幸子が己以外の他の男のものだということを更に思い知らされる羽目になる。
「っ、あ……」
「？……」
夜の散歩を終え、自室へ戻ろうと廊下を歩いていたデイモンは、微かに聞こえてきた声に足を止めた。
この声には…聞き覚えが…ある。
「……んんっ……」
間違いない、この声は。
ハッとして扉を見ると、そこはアラウディの自室であった。今この部屋の中で、アラウディが幸子を抱いているのだ。
デイモンの中にアラウディへの嫉妬が膨れ上がっていった。
「っ、……ぁ」
しばしその場に立ち尽くしていると、部屋から洩れ聞こえていた声が小さくなっていった。
アラウディが己の気配を感じたのかもしれない。デイモンは足早にその場を去った。
「おのれ！忌々しい雲が…!!」
自室に戻るなりデイモンは怒りをぶつけるように机の上を叩いた。
なぜだ!?
なぜ幸子は己のものではないのだ。
行き場をなくした愛は、アラウディへの憎悪となり、デイモンの中に黒く渦巻いていた。
怒りのおさまらないデイモンは、自室の中をぐるぐると忙しなく歩き回った。
いっその事シモン=コザァートより先にアラウディを消してしまおうか――‥
いや、それでは駄目だ。私の計画が台無しになってしまう。
「ぐっ…!!」
デイモンは死神を思わせるような大きな鎌を取り出すと、それで己の太股を突き刺した。
飛び散る鮮血。そして痛みがデイモンを冷静にさせた。
怒りという感情は判断を鈍らせる。
アラウディはボンゴレⅠ世最強の守護者。強いボンゴレを創るには彼の存在は必要不可欠。
一時の感情で大切な駒を台無しにする訳にはいかない。
「ヌフフフ。全くもって忌々しい雲です。しかし私の野望の為に、あなたは生かしておいてさしあげましょう」
全てはボンゴレのため
そう思う事で今にもアラウディを殺してしまいそうな自分を止めた。
「幸子」
デイモンは愛しいその名を呟いた。
逢わなければ…こんな事にはならなかったのに。
だがもう遅い。賽は振られた。
例え現世で結ばれずとも、私は必ずお前を見つける。
何度生まれ変わろうがお前は私のものです。絶対に離しません。次に逢える時を楽しみにしていますよ、幸子。
「愛しています」
月明かりに照らされたデイモンの表情は美しい程に狂気を湛えていた――‥