その日の夜。
久しぶりにジョットや他の守護者たちと晩餐を共にしたデイモンは、屋敷を抜け夜の散歩へと出ていた。
ファミリーと呼ばれる仲間たちとの絆を重んじるジョットは、晩餐のように仲間たちと共有する時間を何よりも大切にする。それはデイモンにとっては退屈な晩餐でしかないのだが。
そういえば晩餐の時アラウディの姿がなかった。
まあ、孤高を貫く彼のことだ。姿を見せなくても特別驚きはしないが。
「慌ただしい一日でした」
空に浮かぶ月を見上げながらデイモンが呟いた。
今宵は満月。人の中に潜む狂気と呼ばれる血が暴走しそうな、そんな夜だ。
月明かりを頼りに、屋敷を囲む森の中を散策しながら計を巡らせる。
シモン=コザァートの件は早々に手を打たなくては。取り返しがつかない事になってからでは困る。それに――‥
そこでふと今まで巡らせていた思考を止めた。
「幸子」
不思議な女性だった。
傍にいるだけで心が満たされ温かくなる。
「ヌフフフ。今日出逢ったばかりの女にここまで心を奪われるなど……滑稽な話です」
自らを嘲笑うように言う。それでも幸子の笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
一度目は偶然逢っただけ。
再会できたのは奇跡。
しかしもう一度逢えたならそれは――‥
「こんな時間に来客でしょうか？」
ボンゴレ本部である屋敷へと続く道を誰かが歩いているのが見えた。
森の中からそれを見かけたデイモンは、舗装された道の方へと歩みを進めた。
「幸子！」
月明かりに照らされた幸子がそこにいた。
「えっ、あ、デイモンさん…？」
幸子が驚いたように己の顔を見つめていた。そんな幸子を見つめ返すデイモンが、ある確信に口の端を上げた。
「間違いない」
「えっ…？」
三度逢えた。
偶然でも奇跡でもない。
これは……運命。
「幸子」
その感動に浸る間もなく、誰かが幸子を呼ぶ。
声のする方を振り向く幸子の顔が、これ以上ない程の喜びに満ち溢れていた。
「アラウディ！」
雲の守護者アラウディがそこにいた。