イタリア郊外。
のどかな佇まいのその街に来るのは、Ｄ・スペードにとって久しぶりの事であった。
「変わらないですね」
古い街並みのあか抜けない田舎街。
そこにボンゴレファミリーの本部であり、ボスであるⅠ世ことジョットの私邸がある。
ジョットとⅠ世の守護者たちは、ここで戦局を見極め策を講じていた。
デイモンは自ら遠征に出向く事が多く、常にジョットと在るＧに比べれば、よく本部を空けていた。
そう、全てはボンゴレのため――‥
マフィア界においては強欲と力こそが絶対的正義。
Ⅰ世の資質では、完全無欠の巨大なボンゴレを創ることなど不可能と践んだデイモンは、強いボンゴレの基礎を創る為に暗躍を続けてきた。
そんなデイモンが久しぶりにこの地へ戻ったのは、他でもないⅠ世ことジョットに召集をかけられたから。
「このような大事な時期に召集とは……。Ⅰ世は一体何を考えているのでしょうか」
野心家であるデイモンにとって、欲に欠けたジョットの考えは、理解できない事がある。
まあ、またボンゴレを弱体させるような提案でもしてきたら、彼をおだて、およがせ、目を盗み、企てれば良いだけの事。
「さて、急ぎますか」
デイモンがボンゴレ本部目指して歩みを早めた途端、建物の影から飛び出してきた女とぶつかった。
「きゃっ」
「おっと、危ないですよ」
よろけそうになった女の背に手を回し支えた。
「あ、ご、ごめんなさい」
少し頬を染めた女が、弾かれたようにデイモンから離れる。
己に見惚れ、身を離す事を名残惜しく思う女なら何人も見てきたが、慌てて離れる女など初めて会った。
「怪我はないですか？」
「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
デイモンが端正な顔に笑みを浮かべ優雅な仕草で尋ねると、女は恐縮したように頭を下げた。
顔を上げた女のアイスブルーの瞳がデイモンを写す。美しい瞳だ…とデイモンは思った。
「私はこれで……」
急いでいるのか、女はもう一度頭を下げるとその場を離れていった。
こんな片田舎に己の興味を引くものがあるとは…。デイモンは意外に思いながらボンゴレ本部へと急いだ。