幸子は信じられないように大きく目を開いたまま、部屋の中央に現れたホログラムを見つめていた。
「あ……」
「幸子？」
隣に立つ雲雀の呼びかけに応える余裕もなく、彼女は食い入るようにその男を見つめた。
(あの人が……白…蘭…？)
幸子は寝苦しい夢の中にいるようだった。鼓動が早鐘を打つ。
ホログラムとして現れた男の顔は忘れるはずもない。だが幸子の知るその男とは全く雰囲気が違っていた。
「ねえ」
「あっ、な、なに…？」
呼び声にハッとして応えれば、雲雀が仏頂面でこちらを見ている。
「それはこっちの台詞だよ。なにボケッとしてんの？」
「う、うん…。ごめんなさい…」
雲雀の青灰色の瞳が訝しげに幸子を伺っている。
鋭い雲雀のことだ。
動揺していると悟られているだろう。
なにか言いたげに雲雀が口を開きかけたが、すぐにぐっと真一文字につぐみ前を向いた。
釣られて幸子も前方を見れば、微笑む男と視線があう。
「久しぶりだね♪木梨幸子チャン」
「ひばり…さん…」
やはり白蘭だというその男は、並盛町で出逢ったひばり本人であった。
ひばり…白蘭は大袈裟な仕草で笑みを深める。
「わあ、嬉しいな。僕のこと覚えててくれたんだね♪幸子チャン」
「な、なんで…」
「ん？ああ、なんで偽名を名乗ったかって？
そんなの決まってるよ。幸子チャンと仲良しになりたかったからさ」
「!!?」
しれっと答える白蘭。
彼の考えが読めない。
「だーって僕が白蘭だって分かったら幸子チャン警戒したでしょ？そんなのつまらないじゃん。僕は君に有りの侭の僕を受け入れて欲しかったんだ」
騙しちゃってごめんね…と白蘭はおどけたように手を合わせた。