もうけたたましいエンジン音すら聞こえないくらいにヘリコプターが小さくなった時、初めて幸子の瞳から涙が零れた。
堪えていた分、涙は後から後から止めどなく溢れてくる。
「うっ…恭弥……」
本当は行ってほしくない。ずっと傍にいてほしい。
雲雀が負ける…
そんな事思ってもいないし考えた事もない。
その強さを疑った事すらない。
ただ、愛しているだけ。
雲雀を愛しているからこそ離れたくないのだ。
「笑顔で見送り人知れず涙するなんて、けなげ～」
「!?」
ビクッとして振り返ると、帽子を被り眼鏡をかけた背の高い男が立っていた。
見覚えがあるが、どこであったかはっきり思い出せない。
「あの…」
「あり～っ、オレちんの事忘れちったの？木梨幸子ちゃん」
「!?…(なんで私の名前を知ってるの!?)」
この感覚、どこかで…。
「寂しいな～……オレちんはこんなに君の事想ってるのに……。ヌフ♪」
この背筋の凍るような笑い声…私は聞いた事が……ある!?
そうだ。あの時だ。
アーデルハイトに捕まったあの日、登校時に絡んできたあの男だ。どうしてこんなところに…!?
「ヌフフッ。思い出してくれた？……幸子ちゃんはオレちんのものだって」
「!!?」
この男はなにを言っているのだろう。自分がこの男のもの…？理解できない。
「じゃあさ、この姿を見れば思い出すかな～？」
男の姿を霧が包み込んだ。
「君が……」
ゆっくりと男の姿が変わっていく…。
「私のものだという事を」
霧が晴れると、そこにはコートを羽織った水色の髪の男が立っていた。