バララララ
ヘリコプターのエンジン音が、開け放した扉から機内へと響いてくる。
そこから一瞬見えた、沢田綱吉の精気の抜けた顔。
自分を楽しませる、意外性を持った彼の姿はそこにはなかった。
つまらないな。
雲雀はそう思った。
沢田の事だ。
おそらく肉体的にというよりも、精神的なダメージを負ったに違いない。
(沢田綱吉、それが君の甘さなんだ)
精神に打撃をうけるのは、信じたものを打ち砕かれた証拠。
誰かに吹き込まれた言葉で揺らいでしまう…
その程度の覚悟で大切なものを守れるわけがない。
では信じる覚悟を持つにはどうすればいいのか？
簡単だ。貫き通す強さを持てばいいだけ。
己を信じる強さ。
己を信じてくれる者に与えられる強さ。
そう、幸子の為にも己はもう負けないと決めた。
誰であろうと、邪魔する者は何人たりとも咬み殺す。

恭弥――‥!!
「!?」
ふと、幸子の呼ぶ声が聞こえた気がした。
修行を終えたあと、並盛に残してきた彼女がこんなところにいるはずもない。
…まだ離れて数時間しか経っていない女の事を、もう恋しく感じているのだろうか。
変わったな、と思う。
(君が僕を変えたのかもね、幸子)
「委員長！粛清委員会の女が！」
草壁の声に我に返ると、沢田たちと対峙する鈴木アーデルハイトの姿が見えた。
「副委員長、ここでいいよ」
「はい！」
草壁が巧みな操作でヘリコプターを陸地へと近づける。
今の自分がアーデルハイトに負ける訳がない。まあ、だけど。
欲求不満のはけ口には丁度いい、肉の塊だ。
雲雀は不敵な笑みを浮かべた。
それに、今のもぬけの殻のような沢田に、信じるものの強さを、譲れないものの強さを見せつけてやりたい気持ちもあった。
「副委員長、並盛に戻ったら幸子がちゃんと家に帰っているか確認して」
「お任せ下さい」
心のざわつきを抑えつけると、雲雀はシートから立ち上がった。
「ご武運を!!」
「うん」
草壁に応え、雲雀はヘリコプターから身を踊らせた。