他には誰もいない校庭で、その人物だけがやけに鮮明に思えた。
唇が震える。逸らそうにも"彼"から目を逸らす事が出来ない。
「やぁ、久しぶりだね♪」
まるで忘れてしまったように言葉を発する術を持たない幸子にかけられた愛想の良い言葉。
「その様子だと、やっぱり記憶を持ってるんだね………木梨幸子ちゃん」
並盛中学正門。
立っていたのは――‥
「びゃく……らん？」
「わあ、僕のコト覚えていてくれたんだ。嬉しいな」
屈託なく笑う白蘭。幸子の脳裏に焼き付いて離れない、その笑顔。
「なんで…？」
「なんでって――」
正門の前で、腰に腕を宛て ニッコリ笑顔のまま首を傾げた白蘭は、次の瞬間には幸子の目の前にいた。
「幸子ちゃんをさらいに来た、って言ったらどうする？」
「！」
「ハハハ…冗談だよ♪だからそんな泣きそうな顔しないで」
と幸子の頬に伸びた 白蘭の手が、柔らかい彼女の頬ではなく 固いトンファーを握った。
体は幸子を向いたまま、白蘭は視線だけを動かしおどけたように言う。
「危ないなぁ、こんな物騒なモノ投げつけてきて。僕はともかく幸子ちゃんが怪我でもしたらどーすんの？――雲雀チャン」
「離れろ。幸子に指一本でも触れたら咬み殺す」
片方のトンファーを構え、鋭い視線を投げつけた雲雀恭弥がそこに立っていた。