放課後。幸子と市邑はディーノを手伝い書類を持って廊下を歩いていた。
並盛中学での代理戦争に参戦できるよう、教員になったディーノ。
いいアイディアだろと笑うディーノに市邑は肩をすくめて苦笑した。それはディーノを心配しながらも、彼の意思を尊重したいという気持ちの表れ。
そんな市邑の想いは ディーノにも伝わっているようで。
「心配すんな、セイ。教員も代理戦争もしっかりやるからな」
「…の、割に さっきからもう20回はスベってるよね、ディーノさん」
部下の前では力を発揮するディーノだが、己の守護者である市邑の前ではこの限りではなかった。
「お、おま…っ！これはスリッパがスベるからで!!」
「ふふ…そういう事にしておいてあげるよ」
「あのなぁ！」
幸子は２人のやりとりを聞きながら思わず笑ってしまった。
軽口を叩き合う２人は、とてもボスと部下とは思えない。どちらかと言えば仲の良い兄と弟のような。
ディーノが力を発揮できない理由は そこにあるのだろうと幸子は考える。
「でもディーノさんが先生なんて、なんだか不思議」
「ハハハ…そうか？オレは幸子の先生になれて嬉しいぜ」
「それじゃあ今度 英語教えて下さいねっ、ディーノ先生」
「勿論だ。…まあ、英語よりイタリア語の方が得意だけどな」
太陽のような笑顔で幸子の頭を撫でれば、ふいに咎めるような声が廊下に響いた。
「触るな」
頭を撫でただけでこれだけ反応する人物は一人しかいない。