幸子が風チームのバトラーとして代理戦争に参加が決まった翌日 代理戦争２日目――‥
「あれ…？」
教室に着くなり違和感を感じた。
いつもと変わらない朝の風景。…変わらない？
(ううん、違う。そうか、今日は――)
クラスメートと挨拶を交わしながら席に向かう途中、幸子は違和感の正体を知る。
「おはよう」
「ああ…木梨さん。おはよう。爽やかな朝だね」
隣の席の生徒会執行部副会長 市邑清(いちむらせい)が幸子に気づきニコッと微笑んだ。
朝よりも爽やかであろう市邑の笑顔は、並中に通うほとんどの女子を瞬殺してしまう殺傷能力を持つに違いない。そんな市邑の周りに、今日はファンが一人もいない。
違和感の正体はこれだったのだ。
ほぼ100％ 朝は(本人の意思とは別に)ファンに囲まれている市邑。
そんな彼が一人でいる理由は――
「市邑君、元気ないね。なにかあった？」
そう。今日の市邑は普段と何処か違う。
近寄り難いというか、心ここに在らずといった感じだ。
しかし市邑ファンからして見たら 憂いを帯びた王子様も堪らないものがあるらしく、遠巻きに彼をチラチラ見ている者はいる。
市邑はそんな視線を流しつつ、幸子に向けてまた小さく微笑んだ。
「木梨さんには全てお見通しだね」
「そ、そんな事ないけど…っ」
「ふふ…可愛い」
「っ!!」
雲雀と同じ性質を持つ市邑には、いつもこうしてからかわれてしまう。
「私で良ければ相談にのるよ？」
言えば市邑は僅かに首を傾げて幸子を見た。
「ありがとう。でも、相談するまでもなくすぐに分かるよ」
「えっ？」
「俺の心配事」
市邑の言葉の真意を知ったのは、二時限目の英語の授業を迎えた時であった。
ガシャーン！
と派手な音が廊下で鳴り響いた。ざわめく教室。
「何の音かな!?」
驚き顔で市邑を見れば、なぜか彼は口許に手を充て苦笑していた。それはまるで原因を知っているような態度。
「市邑く…」
「おーいて…今度こそビシッと決めよーと思ってたのにな」
ガラッと開いた扉と共に流れ込んできたよく知る声。
「新任英語教師のディーノだ。ヨロシクな！」