「遅い」
応接室に着くと、開口一番そう言われた。
長い足を組んで革張りのソファーに座った雲雀が、不機嫌そうに幸子を軽く睨んでくる。
「ごめんなさい」
「…なに怒られて嬉しそうな顔してんの？」
思いがけずクロームとの再会に緩んだ幸子の表情を見て、雲雀が眉を潜めた。
幸子は応接机の上に持っていた弁当を置くと、雲雀の隣に腰かけた。
「ね、恭弥っ。さっき廊下で誰に会ったと思う？」
「……誰？」
雲雀が怪訝そうに尋ねた。
「クロームちゃん！」
「……」
「クロームちゃんが並中に転校してきたんだよっ」
「知ってるよ」
素っ気なく応えると、雲雀は弁当のフタをパカッと開けた。
「えっ？ なんで恭弥 知ってるの？」
「愚問だね。僕を誰だと思ってるんだい？」
「……並盛中学風紀委員長です」
答えれば、雲雀はフンと鼻を鳴らして弁当を食べ始めた。
確かに並中を支配する風紀委員長の雲雀なら、転入生の情報など一番に仕入れているだろう。
しかし そういう事なら話は早い。
「あのねっ、さっき京子ちゃんから聞いたんだけど、今日 沢田君の家でクロームちゃんの歓迎会をするらしいの。恭弥も一緒に…」
「行かない」
いつも通りの即答。
「い、いつもながら断わるの早っ」
「幸子が学習しないからだよ。僕がわざわざ小動物達と群れに行くと思う？」
「はは…思いませ～ん」
「分かってるなら一々聞かないで」
ぴしゃりと言い放ち、雲雀はだし巻き卵を口にした。そんな雲雀の様子にはめげずに幸子は甘えるように雲雀のシャツの裾を引っ張る。
「なに？」
「歓迎会、行きたいよ」
「行ってくればいい。君一人でね」
「う、うん…」
その言葉に、幸子は目を丸くして頷いた。