「10代目にお逢いしに行ってくる」
朝食を済ませた獄寺は、そう言い残して一人ボンゴレアジトを後にした。
その口調は至極自然で、昨夜悲報を聞かされた後でなければ、沢田は今も元気でいると錯覚させるものだった。
(沢田君がもういないなんて…)
一人アジトのキッチンでガチャガチャと食器を洗いながら、幸子は沢田の事を考えていた。
信じられない。例の深夜の密会時に逢った時には普段となんら変わりない元気な沢田だったのに。
「幸子姉」
ふいに声をかけられて入口を振り返れば、フゥ太とビアンキが立っていた。
「手伝うよ」
そう言って近づいてきた２人は幸子を挟むようにして流し台に立つと、後片付けを手伝い始めた。
「ありがとう。フゥ太君」
「気にしないで幸子姉。皆で片付けた方が早く済むよ」
フゥ太がニコッと笑った。
「そうよ、あなたはもっと私達に甘えなさい。幸子」
「ありがとうございます。ビアンキさん」
「目の下の隈」
「えっ？」
「昨日はちゃんと眠れたの？…幸子」
ビアンキに指摘され、幸子はふるふると首を横に振った。ビアンキ相手に隠し事をしても仕方ない。
「キチンと睡眠取らないとダメ。寝不足はお肌に大敵よ」
「はい。ごめんなさい…」
沢田の事、それに雲雀への心配で昨夜は一睡もできなかった。
「ツナが原因？…でも、それだけじゃないわね」
「っ……」
ビアンキに心の中を当てられ、幸子は思わずスポンジをぎゅっと握りしめた。
スポンジにつけられた洗剤がぷくぷくと泡立ち、幸子の手を泡だらけにする。
「雲雀恭弥ね」
「っ、……はい」
白状してしまえば、涙は後から後から溢れてくる。ビアンキは幸子の肩を優しく擦りながら言った。
「愛する人と離ればなれになっているのは辛いわね」
「っ、恭弥を信じてます。でも…どうしても……心配が拭えなくて…」
「解るわ。それは愛する人を持つ者ならば誰もが抱く自然な感情なのよ」
「…恭弥に……逢いたい」
今はそれだけでもう。
「僕達がついてる。元気出して、幸子姉」
年下のフゥ太にまで気を遣わせてしまったと思うと、申し訳なく情けない。
幸子はぐいと涙を拭い笑顔を見せた。
「うん…っ、ありがとう」
「うん。やっぱり幸子姉は笑顔が似合ってるよ」
「そうね」
フゥ太とビアンキの優しさが心に染みる。
そういえば…と幸子は思う。
この世界では命を落としているリボーン。一度愛する人を失い、そして再び過去から来た大切な人と再会するというのは、どんな気持ちなんだろう。
朝食時の様子だけ見れば、それを微塵も感じさせないいつも通りのビアンキとリボーンの関係。幸子はビアンキの愛の強さと深さを感じずにはいられなかった。
強い人だ…と幸子は思った。
自分も雲雀に対してそうありたいと望む。