*デザートローズ*
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「初音!はつねーっ!」
焼け落ちる家屋の間に こちらへと手を伸ばす妹の姿
制止され助けに行くことは出来ない
火の中にいる可愛い妹の名を何度も呼んだ
そこで目が覚めた
「ッ!?」
飛び起きて辺りを見ると
日が昇り始めた所なのかまだ暗い部屋の中
所狭しと並ぶ布団に男共が眠っている
顔を洗うため自身の刀と羽織を持ち廊下へ出た所で
むさ苦しい男ばかりのこの場所での紅一点
まだ11、2歳だろう優様と出くわす
「おはようございます
お早いのですね、入江さん」
凛とした可愛らしい声で挨拶してくる
この時間にこちらの方へ向かってくる所を見ると朝食の用意だろう
「おはようございます、優様。
朝からご苦労さまです。」
「様なんてやめてください。
そんな偉くないですからっ。優でいいです、優で!」
もーっと言わんばかりに拒否されるが
鬼兵隊 隊長の高杉に知れれば殺されかねない
「申し訳ないですが、それは出来ません、優様」
「はぁ……
無理を言ってすみません、入江さんまた後ほど」
少し落胆したかと思えば にこやかに横を通り過ぎ台所へ向かう
ボソリと 「全て晋助のせいです、いつか仕返ししてやります」と言ってたのは聞かなかったことにしておこう
現在の拠点内には井戸もあるが
歩いて10分ほどの所に川が流れているため
皆、体を洗ったりするのには川を使うようにしている
白み始めた空を見上げながら
新鮮な空気を味わいながら川原へと歩みを進めた
あの夢を見たのはいつ以来だろうか……
あれもう3年ほど前の話
幕府が開国する少し前の事だ
攘夷戦争は未だ激戦を続けているが天人の行動が今よりも酷い時期の事
攘夷戦争参加の為に男手の少ない民家を平気で襲っていた天人に
俺の住んでいた村も狙われた
村全体が 赤い炎に包まれ 泣き叫ぶ悲鳴で溢れた
まるで地獄のようだった
あの日 俺は隣村まで出ていた
5つ年の離れた妹を家に残して
村の前にたどり着いた時には
木造家屋が並んでいたため 炎はすでに村全体を覆っていた
我が家へ 転がる骸と瓦礫の中
妹の身を案じて 足がもつれながらもひたすらに走った
たどり着いた我が家も見る影を無くし
炎に包まれ 形を崩し始めていた
「初音!!」
可愛い妹の名を呼び生存を確かめるようにひたすらに炎を纏う我が家に向かい叫んだ
「お兄ちゃん」火の中から微かに声が聞こえた
その声に向かい走り出そうとしたら誰かに後ろから着物を引っ張られ止められた
「危ねぇ!!」
目の前に焼け落ちた屋根が轟音をあげ落ちる
止められなければ死んでいた
だが、妹は?
声のした方を見やれば我が家は跡形も残ってはいなかった
「はつねーっ!!」
情けないことに泣き崩れた
なぜ自分だけが助かってしまったのか
未だメラメラと燃える炎をただ見つめて涙していた
俺を止めた同い年位の男の子は
いつのまにか何も言わず立ち去ってしまっていた
翌日の昼には村全体の炎は消えていた
我が家のあったその場所を掘り返しても
妹の骨は残っておらず 父の残していった刀が1本 煤にまみれた状態で見つかった
それ以外見つけることは出来なかったことに
また1人涙した
生きる糧を無くした俺はしばらく 生きた屍のような生活をしていた
何もする気になれず
頭の中で 妹が歌うメロディーが流れては頬に涙が伝った
「食べますか?」
そう言って りんごを差し出してくれたのは
妹と変わらぬ背格好の優様だった
その隣には あの時俺を止めた少年もいた
「は…つね…」
数日なにも口にしていなかった俺は
枯れた声で その少女と妹を重ねた
知らぬ名で呼ばれた少女は首を傾げ不思議そうにするも すぐ笑って 食べてくださいとりんごを差し出してくる
それを受け取り涙を流しながら頬張った
その様子を嬉しそうに 少女は笑って見つめていた
少年は呆れた顔で壁に背を預け 道行く人を眺めていた
にこにこと見つめられながら りんごを食べ終えて再度少女の方を見やると
「まだいりますか?」と抱えた紙袋のりんごを取り出してくる
「ありがとう」と細々しく返せば 満面の笑みで
どういたしまして と返してくれる
「私は 吉田 優。 後ろのは高杉晋助です。貴方のお名前は?」
後ろにいた少年は自分の名まで紹介されるとは思ってなかったのか おい! と声を荒らげたが
「いいじゃないですか〜、減るもんじゃないんですから〜」と少女の言葉に 深くため息をついて 好きにしろ とそっぽを向いた
「りぇ…入江…海斗。」
まだ掠れた声で2人に名を明かした
「入江さん、また会いましょう」
そう笑って りんごを2つ手渡されると
人混みの中へと2人は消えてしまった
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