Another~虚~
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日が沈み、月が顔を出して数時間程
優は未だ森の中で身を潜めた。
大木から見えた港からは距離の離れた場所で
一夜を過ごすことにした。
追手の目を誤魔化す為に1度町の近くまで行き
着物を割いて 町へと降りた様に森に置いてきた
その場からも随分離れ、朝までなら凌げるはずだと
木々の影で仮眠をとることにした
案の定、捜索はこちらまで及ばず
朝を迎えることが出来た。
もう一度現在地と鬼兵隊の船を木の上で確認し
日が暮れ始めるのを木の上で待った。
1つ幸運な事に鬼兵隊の船はココから近かった。
不幸は
日が沈み始めた頃
船の近くに待機していた奈落が鬼兵隊と交戦し始めた。
まるで私が見ている事を分かっているかのように…。
今、脱出してきたことを悔やまぬように
丸腰でその場へ向かうしかなかった。
時が経つにつれて 鎖の重さを感じるようになってきた。
考えられるとすれば 虚が側に居ない から。
おそらく 虚の側で私は 虚ろの中のアルタナを少しずつ吸収し力を付けていた。
そう仮定すれば現状に納得できる。
血の小瓶も持ち合わせていない今、時間をかけては居られない。
鬼兵隊の元へたどり着いたのは日が沈みきってからだった。
たどり着いた時には既に奈落に囲まれながらも
鬼兵隊は接戦を続けていた。
ほんの10日程会わなかっただけなのに
足元に転がる奈落の1人から刃を剥き出しにした錫杖をお借りし
自由の効かぬ手で 鬼兵隊に加勢した。
「優様、我等と共にお戻り頂こう」
「戻る訳には行きません。」
あっという間に囲まれ
切りつけられ血を流す程、鎖の重みは増していった。
「優さまっ」
船上からライフルを構えていた すみれが私に気付き銃弾が奈落を討ち取っていく。
すみれの声を聞いてかまた子は大声で告げる
「晋助様っ!
優様が戻って来たっす。」
鬼兵隊の指揮はあがり
その声に晋助は私の元へと駆けつけてくれる
「珍しく随分ひでぇ格好だなぁ、優。」
「貴方は珍しく上機嫌ですね、何かいい事でもあったんですか、晋助」
背中を預けながら久しぶりの会話を交わす
奈落の数が減ってきた所で
心臓がぎゅっと握りしめられているような感覚に膝をつく
「優。」
「血を、流し過ぎました。」
息絶えだえに心配そうな声で名を呼ぶ高杉に答える。
息を整え立ち上がろうとした時
真後ろに 虚の気配を感じると同時に
首の真横に刃を突きつけられる。
「う、つろ…。」
「随分探しましたよ、優。
利口すぎて困りますね。」
スーッと首筋に当たる刃から血が伝うのが自分でもわかる程、 虚の登場により戦場は凍りついた。
その感覚に、私は膝から崩れ落ちた
「高杉晋助、ここで優を殺されたく無くば去りなさい。」
(こうなる事は分かっていた、今回晋助と逃げる事が私の目的ではない。)
伏せていた目を開け 船上にいるすみれを見上げる
私の視線に気付きハッとする
「すみれ、私の薬箱はまだ置いてありますか?」
「はい、置いてありますわ」
静けさに包まれる港に2人の声が響く。
「そうですか。
アレを開けることを許可します。
全て貴女に預けます。」
そう伝え 微笑めば すみれは静かに涙を流す。
「なんの話をしているのか分かりませんが、優。
この状況で何か策でもあるのですか?」
虚は刀を首に強く当てる。
「現状、私は鎖に繋がれ上手く動けません。
そんな私と鬼兵隊全員でかかろうとも
貴方を倒す事はどう見積っても不可能でしょう。」
私の言葉に誰一人口を開かなかった。
「虚、私をここで生かすも殺すもお任せします。その代わり、今鬼兵隊に手出ししないで頂きたいのです。」
持っていた錫杖を離す
「優様っ」
涙を浮かべながら私の名を呼ぶまた子
船を向いて座す私は 皆の顔を見て微笑む。
高杉の目には 優の背中があの日の光景と重なって見えた。
「晋助っ!貴方では…
いえ、私でも虚には敵いません。」
後方で動き出そうとする高杉を制止する。
「優、貴女がこのモノ達に託す物が何なのか興味があります。
良いでしょう、兵は引きます。
それに今、貴女を殺す気は私にはありません。」
首筋に当たっていた刃の感覚が無くなり
優は立ち上がり虚と向き合う
虚は自身が傷付けた首筋に手を伸ばし指で血を拭き取るようになぞる
その手についた血を眺め、しゃがみこみ優を抱き上げ、船に背を向ける
「目的は達しました。引きますよ。」
その言葉に奈落は引き下がっていった
静かに高杉は虚に剣を向ける
「貴方は、優の忠告を無下にするおつもりですか?」
虚の腕の中から晋助を見る
怒っているようで、悲しんでもいるようで
その表情に困った顔で微笑む
「晋助、また会えます。
その時私はどちらの味方についているかは分かりませんが、必ず、また会えます。」
晋助は何も言わず 剣を向けたままこちらを見つめる
「晋助、貴方を愛しています、ずっと。
虚は私が伝え終えると
私を抱えたまま屋敷へと歩み始めた