ピグマリオン
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運転手に料金とチップを渡せば大袈裟に有り難がられたので、なんというか、平和な国だと名前は思った。久しぶりの母国である。並盛町は都会と呼べるほど栄えてはいないが、住人たちが活気に満ちており住みやすそうな町に見えた。沢田綱吉はともかく、若獅子と呼ばれたあの男の帰る場所だと思うと不思議な心地にもなる。次期十代目の守護者たちもそのほとんどがこの町に縁があるというのだから、今後のボンゴレ、ひいてはイタリアンマフィア全体にしても重要な土地になるだろう。もしもロットバルトの日本校を作るなら並盛の近くはどうだろうかと名前は夢想した。
散策がてら町を歩いていると、ブロック塀の上に小さな黒いシルエットが見える。猫ではない。二頭身に不釣り合いなはずのボルサリーノが妙に様になっている。
「ちゃおっス」
「チャオ、黄色のアルコバレーノ。いきなり押しかけてごめんね」
「構わねーぞ。女の急な来訪も歓迎するのが伊達男だ。ツナはまだ学校だぞ」
「ご挨拶に来たってのに何も用意できてなくてね。今のうちに手土産として花なりお菓子なり刺客の首なり用意しておこうかな」
そう言って名前は音もなくハンドガンを構え、次の瞬間にはどさりと何かが崩れ落ちる音がした。木の覆い茂る神社の方向からだった。こんなこともあろうかと、街中で目立たないようにサイレンサーを装着しておいたのだった。名前は既に息の無い男の元へ近寄り鞄や上着、靴の中などを漁ると、どこかへ電話を掛けた。何かを指示したのち、リボーンのところへ帰ってくる。名前が死体に背を向けたのとほぼ同時に黒塗りの車が脇に停まり、亡骸を回収していった。
「ボンゴレじゃなくてうちの案件でした。やだね、最近は物騒で」
「中々良い手際だったな。どうだ、ツナのファミリーになる気はねえか」
「ええ、それは揺らぐなあ」
リボーンも未来に渡っていたのだから、当然あの未来での名前を知っている。
「どうして未来の私はヴァリアーに入ったかね」
「暗殺者養成機関からボンゴレの暗殺部隊への入隊なんて、王道のエリートコースじゃねえか」
「……ロットバルト卒業生の進路って知ってる?」
「いや、学院としては有名だがその後については聞いたことがねぇな。どうなんだ?」
「八割以上が学院長の私兵。それ以外はほとんどがフリーの殺し屋。でもすぐに消されてる」
「ロットバルトにか」
名前は肯首した。とある未来の自分、その記憶を受け継いだ自分やボンゴレ関係者たち。十年後の名前がヴァリアー幹部になることの重大性を本当に理解しているのは果たしてどれくらいだろうか。
このままいけば名前は卒業と同時に学院長の私兵になる。卒業とは名ばかりだ、将来は地続きだ。むしろこれから先、心身が使いものにならなくなるまで一生あの男の兵隊なのだと、そう思っていた。
「あの未来で私はロットバルトからの『脱出』に成功している。一体どうやって……。白蘭とか6弔花だけじゃなくて、自分のことについても教えてほしかったかな」
「ヴァリアーの連中は――」
「おいリボーン! 聞いてないぞ、教科書に――って誰その人!?」
どたどたと隠す気もない足音が近付いてきたかと思えば、制服姿にスクールバッグ、澄んだ瞳の少年がこれまた騒がしく叫んだ。名前は不躾と知りながら少年を上から下まで見渡した。やはり華奢だ、筋肉のつき方も裏稼業の人間のそれではない。小さな家庭教師に何やら異議を申し立てている姿も、……あまり利発そうには見えない。健康体には見えるが。
リボーンと何かを話していた少年と目が合う。彼こそが――
「お前も未来で会っただろ、この時代の名前だ。有名な暗殺者養成学校のエースで、今日はお前に会いにドイツから来てくれたんだぞ」
「こんにちは、ドン・ボンゴレ」
「何そのおっかない学校ー!? いや、それにオレはボンゴレ十代目なんかならないって!」
「まだそんなこと言ってやがるのか。いい加減覚悟決めろ」
赤ん坊に追い立てられて気の抜ける悲鳴を上げる彼こそが、今ボンゴレ十代目に最も近い男・沢田綱吉。復讐者からの脱獄犯・六道骸、かつてのボス最有力候補だったXANXUS。そして時代の征服者となり得た白蘭を倒した、たった一人の少年である。
散策がてら町を歩いていると、ブロック塀の上に小さな黒いシルエットが見える。猫ではない。二頭身に不釣り合いなはずのボルサリーノが妙に様になっている。
「ちゃおっス」
「チャオ、黄色のアルコバレーノ。いきなり押しかけてごめんね」
「構わねーぞ。女の急な来訪も歓迎するのが伊達男だ。ツナはまだ学校だぞ」
「ご挨拶に来たってのに何も用意できてなくてね。今のうちに手土産として花なりお菓子なり刺客の首なり用意しておこうかな」
そう言って名前は音もなくハンドガンを構え、次の瞬間にはどさりと何かが崩れ落ちる音がした。木の覆い茂る神社の方向からだった。こんなこともあろうかと、街中で目立たないようにサイレンサーを装着しておいたのだった。名前は既に息の無い男の元へ近寄り鞄や上着、靴の中などを漁ると、どこかへ電話を掛けた。何かを指示したのち、リボーンのところへ帰ってくる。名前が死体に背を向けたのとほぼ同時に黒塗りの車が脇に停まり、亡骸を回収していった。
「ボンゴレじゃなくてうちの案件でした。やだね、最近は物騒で」
「中々良い手際だったな。どうだ、ツナのファミリーになる気はねえか」
「ええ、それは揺らぐなあ」
リボーンも未来に渡っていたのだから、当然あの未来での名前を知っている。
「どうして未来の私はヴァリアーに入ったかね」
「暗殺者養成機関からボンゴレの暗殺部隊への入隊なんて、王道のエリートコースじゃねえか」
「……ロットバルト卒業生の進路って知ってる?」
「いや、学院としては有名だがその後については聞いたことがねぇな。どうなんだ?」
「八割以上が学院長の私兵。それ以外はほとんどがフリーの殺し屋。でもすぐに消されてる」
「ロットバルトにか」
名前は肯首した。とある未来の自分、その記憶を受け継いだ自分やボンゴレ関係者たち。十年後の名前がヴァリアー幹部になることの重大性を本当に理解しているのは果たしてどれくらいだろうか。
このままいけば名前は卒業と同時に学院長の私兵になる。卒業とは名ばかりだ、将来は地続きだ。むしろこれから先、心身が使いものにならなくなるまで一生あの男の兵隊なのだと、そう思っていた。
「あの未来で私はロットバルトからの『脱出』に成功している。一体どうやって……。白蘭とか6弔花だけじゃなくて、自分のことについても教えてほしかったかな」
「ヴァリアーの連中は――」
「おいリボーン! 聞いてないぞ、教科書に――って誰その人!?」
どたどたと隠す気もない足音が近付いてきたかと思えば、制服姿にスクールバッグ、澄んだ瞳の少年がこれまた騒がしく叫んだ。名前は不躾と知りながら少年を上から下まで見渡した。やはり華奢だ、筋肉のつき方も裏稼業の人間のそれではない。小さな家庭教師に何やら異議を申し立てている姿も、……あまり利発そうには見えない。健康体には見えるが。
リボーンと何かを話していた少年と目が合う。彼こそが――
「お前も未来で会っただろ、この時代の名前だ。有名な暗殺者養成学校のエースで、今日はお前に会いにドイツから来てくれたんだぞ」
「こんにちは、ドン・ボンゴレ」
「何そのおっかない学校ー!? いや、それにオレはボンゴレ十代目なんかならないって!」
「まだそんなこと言ってやがるのか。いい加減覚悟決めろ」
赤ん坊に追い立てられて気の抜ける悲鳴を上げる彼こそが、今ボンゴレ十代目に最も近い男・沢田綱吉。復讐者からの脱獄犯・六道骸、かつてのボス最有力候補だったXANXUS。そして時代の征服者となり得た白蘭を倒した、たった一人の少年である。